2003/03/14

「D.C.Valentine Memory」(D.C.~ダ・カーポ~)



 ジリリリリリリ・・・・・。
 目覚し時計の音が部屋に響き渡る。
 やかましい。
 目覚ましを止めなければならないのがかったるくてしかたない。が、止めないともっと
かったるいことになりそうだ。
 俺はベッドの中から手を伸ばして、鳴り続けている目覚ましを止めた。
 ポチ。
 部屋は先ほどのうるささが嘘のように、静けさを取り戻した。
 音夢がいれば、目覚ましを使う必要はないのだが、あいつは看護師になりたいと言って、
看護学校に進学し、看護学校の寮に入ってしまった。去年の春のことだから、そろそろ1
年が経とうとしている。
「かったりぃ・・・」
 俺はそう呟いて、制服に着替えるためにベッドから出た。



 トーストとコーヒーの味気ない朝食を済ませ、家を出る。
 2月の朝はまだまだ寒い。
 なんで俺はこんなに寒い中、学園に向かっているのだろう。たまには休んでもバチは当
たらないのではないか? 毎日毎日、週に5日も学園に通っているのだから、たまに休ん
だりしても問題はないだろう。
 そう思った俺は回れ右をして、閉めたばかりの家の鍵を取り出そうとした。
「朝倉せんぱーい!」
 誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた。声を聞いただけで誰だかわかった。というか、朝からこ
んなに元気なヤツは俺の知り合いの中ではひとりしかいない。そいつはたたたっと走って
きて、俺の前で急ブレーキをかけて止まった。
「おはようございます。朝倉先輩。今日は早起きなんですね!」
「・・・お、美春か。いや、俺らしくもないので今日は家でのんびりしていることにする
よ。それじゃ」
 俺は美春にそう言うと、家に入ろうとドアに手をかけた。
「ダメですよ! 朝倉先輩! 朝倉先輩の面倒を見るように、音夢先輩から申し付けられ
ているんですから。この美春の目が黒いうちはおサボリは許しませんからね!」
 この状態の美春には何を言ってもダメだろう。それに、こう見えても美春は風紀委員。
すでに危険人物として風見学園のブラックリストに載っている身としては、今後の学園生
活のためにも目立つ行動は控えねばならない。そうなのだが、やはり
「かったりぃ」
 と、思わず呟かずにはいられなかった。
 しかたなく、俺は学園に向けて歩き出すことにするのだった。



 キーンコーンカーンコーン。
 午前の授業の終了を告げるチャイムの音が鳴った。
 昼休みのはじまりを告げるチャイムでもあるその音を目覚ましに、俺の頭は覚醒する。
 俺は中庭に向かうため、教室を後にした。
 最近、昼食は中庭でことりと食べるようにしている。数日前、ことりに
「手料理が食べてみたい」
 と言ったら、お弁当を作ってきてくれるようになった。それまでは、中庭で食べたり、
食堂で食べたりといろいろだったのだが、さすがに手作りのお弁当とあっては、人の集中
される所は避けたいと思うのは当然だろう。2月のこの時期、中庭で食事をしようとする
生徒の数は少ない。ま、中には外で食べたいと思う生徒もいるようだが。
 それに、人目を避けたい理由はもうひとつある。
 学園のアイドル、白河ことり。その名を知らないものはいないほどの学園の有名人。去
年の卒業パーティーから俺とことりは付き合うようになった。卒パでの出来事は俺にとっ
て(ことりにとっても)一生の思い出だ。全校生徒の前であんなことをしてしまったので、
俺たちの仲を知らない人はいないほどなのだが、それでもことりの人気は未だに根強い。
 さすがに、みんなの前でいちゃつくようなことはしたくないから、こうしてわざわざ中
庭に来ているというわけだ。
 俺はいつもと同じぐらいの時間に着いたのだが、ことりはまだ来ていなかった。教室を
出る前にことりの方を見たら、友達と話をしていたようだったから、それが長引いている
のかもしれない。
 ベンチに座って、空を見上げた。どんよりした曇り空。太陽が出ていないせいだろうか。
いつもより少し寒かった。
「だ~れだ?」
 ふいに、誰かの手が俺の目隠しをした。こういうことをする知り合いには事欠かない様
な気がするが、声と手の感触、それに耳元にかかるかすかな息遣いから、俺にはそれが誰
だかすぐにわかった。
「お待ちしておりました、姫様」
「わ、姫様だなんて・・・もう、冗談ばっかり~」
 ことりはそう言うと俺の隣に腰をおろした。
「ごめんね、朝倉くん。ちょっと友だちとの話が長びいちゃって。ほんと、申し訳ないっ
す」
 ことりはお弁当の用意をしながら、俺に謝ってくれた。
「今日のお弁当のおかずは何?」
「えっとね。鳥のからあげと、卵焼きとほうれん草のおひたしです」
 いつも通り、とてもおいしそうだ。音夢の料理だと見た目はよくても、味のほうは……
といった感じなのだが、ことりは見た目通りの味なので問題はないだろう。
 俺はさっそく食べようと箸を探す…………あれ?
「あの、ことり? 箸が一膳しかないんだけど」
「うん。今日は私が食べさせてあげる。はい、あ~ん」
 ことりはからあげをつまんで、俺の口元まで持ってくる。思わずあたりを見回してしま
う俺。
「えっとですね、今日は朝倉くんと一緒に帰ることが出来ないんですよ。その代わりとい
うと変なんだけど、そのぶん朝倉くんにいろいろしてあげたいな、と思って」
 なるほど。そういう理由だったのか。突然のことにさすがの俺もびっくりしちまったよ。
 俺はことりが作ってくれたからあげを頬張った。もぐもぐ。うん、美味い。まさに絶品
としかいいようがない。
「どうですか?お味のほうは」
「いちいち言わなきゃいけない?」
「ええ、聞きたいです。朝倉くんの口から」
「おいしいよ。ことりの作る料理は最高だ」
 照れながらそう言うと、ことりは満面の笑顔を浮かべた。笑顔ってのは女の子の最強兵
器だと思った。



 何事もなく午後の授業は終了。
 さくら先生が手短にホームルームを済ませる。
「はい。それじゃ今日は連絡事項もないのでこれでおわり~。みんな、寄り道しないで帰
るようにね。特に、男の子はお菓子屋さんに行かないこと。チョコは自分で買うんじゃな
くて、一番大切な人からもらうものなんだから」
最後に余計な一言をクラスに残し、さくらは職員室へと戻っていった。
 誰だって自分でチョコなんて買いたくないに決まっている。それに、バレンタインは明
日だってのに、さくらのせいで意識しちまうじゃないか。やれやれ。
 ちらっとことりのほうを見ると、さりげなく俺にだけわかるように手を振ってくれた。
これは、期待してもいいってことでしょうか?
 ことりは友だちといっしょに帰るらしいので、俺はほとんどからっぽのカバンを持って
教室を出た。掃除当番でもないのに教室に残っていたってしかたないからな。
 正門まで歩いてきたところで美春に声をかけられた。
「朝倉先輩!お帰りですか?」
「ああ、そうだけど」
「白河先輩とは一緒じゃないんですか?」
「今日は友だちと用事があるんだってさ」
 つきあっているからといっても、俺たちはいつも一緒に帰っているわけではない。そりゃ
一緒にいられるに越したことはないし、一緒にいたいとは思うけど、お互いにいろいろと
都合もあるからな。
「・・・じゃあ、今日は美春と一緒に帰りませんか?」
「そうだな。ま、たまにはいいか」
「それじゃ、行きましょう!先輩♪」
 そう言うと、美春は嬉しそうに歩き出した。しっぽがあったらぶんぶんと振っているこ
とだろう。ほんとに美春ってわんこだよな。
 俺たちは桜公園を歩いている。美春は島の西側に住んでいるので、公園を出たところに
あるバス停まで送るのがいつものパターンだ。ちなみにことりを送るときも同じバスを使っ
ているので帰り道は同じだったりする。
「あ!朝倉先輩、チョコバナナの屋台がありますよ。おいしそうですね~」
 お前はチョコバナナの屋台がおいしそうなのか? ・・・違うよな、チョコバナナがお
いしそうなんだよな。
「食べるか?」
 返事はわかりきっているが、一応聞いてみる。すると、
「はい!!」
 と、元気のいい返事が返ってきた。バナナに目がない美春には愚問だったようだ。
「それじゃ美春が先輩の分も買ってきますね。朝倉先輩はそこのベンチで座って待ってい
てください」
 俺の返事を聞く前に、美春は屋台のところまで走っていった。
 さすが、バナナ帝国の国民。その行動力はバナナエネルギーから得ているんだろうか。
 ベンチに座ってバカなことを考えていると、美春がチョコバナナを2本持って走ってき
た。
「・・・速すぎ」
「だって先輩が早く食べたいんじゃないかなーと思って。お待たせしちゃバナナにも悪い
ですから」
 早く食べたいのはお前だろ、というツッコミはさておき、美春からチョコバナナを受け
取る。代金を美春に払おうとすると、
「あ、今日は美春のおごりです♪ 今、美春の財布はほかほかなんですよ。それに・・・」
 美春はちょっと恥ずかしそうに目を伏せて続ける。
「明日はバレンタインですから。1日早いんですけどね」
 チョコバナナを食べている美春の横顔は、いつもよりもほんのちょっと嬉しそうだった。
 美春の気持ちはなんとなくだが、わかっていた。だが、俺が選んだのはことりだった。
 卒パでの一件を知った後、数日はギクシャクしていたが、今では以前のように話せるよ
うになっている。
 そして、チョコバナナとはいえ俺にチョコをくれる美春。ことりのことを考えて、わざ
と1日前に渡すようにしてくれたんだな。バレンタインデー当日は恋人であることりのも
のだから。
「ありがとうな、美春」
「いえいえ、どういたしましてです♪」
 俺はチョコバナナを食べた後、しばらく雑談をしてからバス停まで美春を送っていった。



 家に帰りついた俺を待ちうけていたのは、電話の音だった。かったるいので、無視して
リビングへ行く。どうせ、しばらくすれば静かになるだろう。そう思っていたのだが、電
話は鳴り止まない。すでに20回はコールしてるような気がする。誰だよ、まったく。俺
はあきらめて受話器を取った。
「もしもし?」
「あ、兄さんですか? 音夢です」
「音夢? なんだ音夢だったのか。それならそうと言ってくれればいいのに」
「言える訳ないでしょ。全く、兄さんは……」
「それより何の用だ? 用が無いなら切るぞ、じゃあな」
 俺はそう言って、受話器を置く素振りをする。
「わー! 待って待って!! 用事あるんですから切らないでー!!」
「……冗談だよ」
「ひどいよ、兄さん。久しぶりに声を聞いたかわいい妹にすることじゃないと思うんです
けど」
「悪かったよ、んで、何の用?」
「あ、えっとですね。兄さん、明日は何の日だか知ってますか?」
「……何の日だ?」
「バレンタインデーですよ。もう、ほんとは知ってるくせに~。それで、かわいい妹から
もチョコレートを兄さんに上げようと思いまして。今日、宅配便で送りましたので、明日
しっかり受け取ってくださいね」
「もしかして、音夢の手作りとか」
「ええ、そうです。苦労したんですよ?」
 気持ちはうれしい。が、食べた後に訪れる悲劇を考えると素直に喜べないものがある。
胃薬、あったかな。
「……兄さん、今すご~く失礼なこと考えていませんか」
「ははは、何を仰る音夢様。謹んで受け取らせて戴きますです」
「何かバカにされているような気がしますけど、まあいいです。用件はそれだけです」
「わかった。わざわざご苦労だな」
「いえいえ、それではまた電話しますね」
 そう言って、音夢は電話を切った。本当にご苦労なこった。しかしこれで受け取らない
わけにはいかなくなったな。明日また電話がかかってくるような気がする。ちゃんと受け
取ったかどうか、そしてちゃんと食べたかどうかの確認の電話が。本当に胃薬を探してお
く必要があるかもしれない、と俺は思った。



 俺は桜の木の前に立っていた。元・枯れない桜の木の前に。
 もちろん、魔法は溶けてしまっているので、桜には花びらはなく、寂しい景色だ。現実
ならば。
 しかし、今、俺の目の前の桜は満開だ。
 夢を見ているんだな、とそう思った。
 誰かの夢を覗き見てしまう力は、俺にはもうない。という事は、これは俺の夢だ。
 最近では夢を見ることは時々あるが、ぼんやり覚えている程度だ。
 夢を見ていたという記憶はあるような気がするが、どんな夢だったかは覚えていない。
そんな感じ。
 だから、こんなにはっきり夢を見るのは久しぶりだ。
 桜の周りには誰もいない。だがどこからか、かすかに何か聞こえてくる。
 それが何かははっきりとわからないのだが、どこかで聞いたことがある歌声だった。
 その歌声を聞きながら、俺はだんだん夢から覚めていくのを感じていた。



「……くん。……くん」
 んー。……ぐー。
「もう、朝ですよ。起きてください~」
 ゆさゆさゆさ。
 ん? 今日は音夢のやつ、随分やさしいな。いつもなら広辞苑の一冊や二冊くらっても
おかしくはないのに。
 ……んん? なんで音夢がいるんだ? あいつは今、初音島にはいないはずじゃないの
か。
 がばっ
 起きた俺の目に飛び込んできたのは、
「あ、おはようございます、朝倉くん。もうすぐ朝食ができますよ」
 制服の上にエプロンをつけている、ことりの姿だった。なに!
「な、なんでことりがいるんだ?」
 あまりに唐突な出来事に、いつも起きた直後はまどろんでいる俺だが、すっかり目が覚
めてしまった。
「なんでって、それは朝倉くんに朝ご飯を作ってあげたいな~と思ったからですよ」
「どうやって家に入ってきたんだ?鍵はかかってたはずだけど」
 俺は当然の疑問を聞いてみた。
「もちろん鍵を開けて、ですよ?」
 違う。俺が聞きたいことはそんな当たり前のことじゃなくて。
 そもそも島の西側に住んでいることりがどうやって俺の家まで来れたんだ?
 いろんな疑問が頭に浮かんできた。なんで朝からこんなにも頭を使わなきゃならないん
だ?
「どうやら目はバッチリ覚めたみたいですね。それでは朝ご飯を食べましょう。私は先に
行って準備してるから着替えて降りてきてくださいね」
 ことりはそう言って、リズミカルに階段を降りて行った。
 何がなんだかわからなかったが、とにかく着替えることにした。
 ここで考えていても仕方ないし、何よりキッチンからはうまそうな朝食の匂いが漂って
きていたからだ。



 ささっと着替えて、トントンと階段を降りて行く。
 キッチンのドアを開けた俺の目に飛び込んできたのは、
「おはよう、朝倉。外はいい天気だぞ」
 まるで自分の家のようにくつろいで新聞を読んでいる暦先生だった。
「な、なんで暦先生がうちに?」
「あー、それはだな、ことりに頼まれたんだ。今日は朝倉とずーっと一緒に過ごしたいん
だと。幸せものだな」
「いや、先生がいる理由にはなってませんけど」
「やれやれ。珍しく早起きしたら頭の回転がニブイようだな。ことりがどうやってここま
で来ることができたかを考えれば、わかるようなもんだが?」
 そう言われた俺はちょっと考えてみることにした。
 …………。
 …………。
 かったりい。
「まったくお前って奴は。私が車で送ってやったんだ。さすがに朝早くだし、ふたりっき
りはまずいだろう。そう思って私もここにいるというわけだ。ちなみに家の鍵は朝倉音夢
から預かっていたんだ。『兄さんに万が一のことがあるといけないので』と頼まれていて
な」
 ……音夢のやつ、いつの間にそんなことを。俺はそんなに信用できないやつだっていう
のか?
「朝倉くん。音夢のことを怒らないであげてくださいね。音夢は朝倉くんのことが信用で
きないからじゃなく、大切な兄さんだから、なんですから」
 ことりが朝食の準備をしながら音夢のフォローをする。
「そうだといいけどな」
 そう言って、俺はことりが用意してくれた朝食に手を付けた。



 ことりに起こされて、ことりと朝ご飯を食べて、ことりと一緒に学園へ行く。いつもは
出来ないことが、今日はこんなにたくさん出来ている。
 そして、ことりと昼食。
「はい、朝倉くん。あ~ん♪」
 ことりは今日も俺に恥ずかしい思いをさせたいようだ。
「ことり。ありがたいんだけど、今日は自分の手で食べたいんだけど」
 俺がそう言うと、ことりはちょっと残念そうにしながらも、箸を俺に渡してくれた。
 さすがに頻繁にそういうことは人前で出来ないからな。いくら俺たちの仲が周知の事実
とはいっても。
「それじゃ、今日は私に食べさせてください。あ~ん」
 な、なにっ?そういう返し技でくるとはっ!
 思わず周りを見渡した。中庭には何組か俺たちと同じように昼食を食べている生徒がい
る。俺がそいつらのほうを見ると、みんな気まずそうに目をそらす。くそ、こいつら何気
ない振りで様子を窺ってやがる!
「どうしたんですか?はい、あ~ん」
 ことりが催促をしてくる。その顔は………可愛い。
 こんな顔を見せられて抵抗することができるだろうか?……俺には無理です。
 俺は他の奴らに見せつけるように、ことりと幸せな昼食をすませた。
 ことりの喜ぶ顔が見られるなら、なんだってできる。今日の俺はどこかがマヒしている
ようだった。



 かったるい授業が終わって放課後。ことりが俺の所へとやってくる。
「朝倉くん、一緒に帰りましょう」
「そうだな」
 俺はからっぽのカバンを持って教室を出る。隣にはことりの楽しそうな笑顔。この笑顔
をもっと独り占めしたいと思った。
 学園を出ると、ことりが腕をくんできた。いつもはこんなことしないのに。理由は多分、
今日という日が特別なものだからだろうか。
 ごく自然に、俺たちの足は桜公園へと向かっていた。
 いっぱいの桜の林の中を抜けて、この公園で一番大きな桜の木の元へ。
「やっぱり、ここが一番落ち着くね」
 ことりは桜の木にもたれてそう言う。
「俺も、この桜が一番好きだな」
 小さい頃、秘密基地だったこの場所。さくらとわかれ、そして約束をしたこの場所。家
出した音夢を探し出したこの場所。美春との思い出の品を埋めたこの場所。そして……。
「私たちにとっての思い出の場所だもんね」
「ああ、ことりが大好きな歌をうたっている姿が印象的だよ。そして、ことりと通じ合っ
たのも、この桜の木だったな」
「うん」
「俺、ことりと一緒にいられて幸せだよ」
「うん、私も。朝倉くん知ってる?今日は何の日か。女の子にとって、とっても大切な日
なの」
「ああ」
「私、一生懸命考えた。どうしたら朝倉くんが喜んでくれるかなって。いっぱい考えたけ
ど、わからなかった。ううん、正確には何をしても朝倉くんは喜んでくれるんじゃないかっ
て、そんな気がしたの。今日は朝からずっと朝倉くんと一緒だったよね? 私、すごく楽
しかった。特別に何かしてる訳じゃない。ただ一緒にいるだけなのに。すごく幸せなこと
だなあって思えたの」
「俺も楽しかったよ」
 一緒に朝ご飯食べたり、登校したり、そんな何気ないことでも、ことりと一緒だとすご
く楽しい。
「これからも私と一緒にいてください」
 ことりはそう言って、俺にきれいにラッピングされた包みを差し出した。
「俺の方こそ、よろしくお願いします」
 俺は包みを受け取り、ことりを抱き寄せる。
「俺は今のこの気持ちを言葉よりも雄弁な行動で示す」
「んっ……」
 俺はことりにやさしくキスをした。
「私、嬉しいよ。チョコレートよりも甘いキスでした」
 そう言ったことりの笑顔は、今日何度も見た中でも一番の笑顔だった。





あとがき



PCゲーム「D.C. ~ダ・カーポ~」のSSです。
ことりエンド後のお話です。
本当ならひと月前に完成しているはずでしたが、いろいろな事情が重なって
ホワイトデーになってしまいました。
まだまだ自分の力不足を感じました。
それではまた次の作品で。



��003年3月14日バレンタイン・デーのひと月後