2005/04/21

はぁはぁ



 はぁ、はぁ、はぁ。
 視線は虚ろで、意識は朦朧として、自分が立っているのか
それとも座っているのかもわからない。
 『呼吸』という普段当たり前のように出来ていることが
出来ないだけで、こんなにも人は変わってしまうものなのか。
 俺は授業中にも関わらず、板書を書き写すこともせずに、
ただひたすら時が過ぎるのを待つのだった。



「あの~、大丈夫?」
 昼休み。屋上で愛佳と一緒にお弁当の時間だ。
 朝からずっと苦しそうな俺を、愛佳は気遣ってくれる。
「ああ、だいじょぶだって」
 口ではいくらでも言えるが、実際はかなりツライ。
 昨日から急に鼻の調子がおかしくなり、風邪でも
引いたのかと思ったのだが、熱を測ってみると平熱だった。
 風邪なのかどうなのか判断がつかないが、とにかく今の
状態を抜けられるのなら、タマ姉にだって魂を売っても
いいかもしれない……、とほんの少しだけ思った。
「たかあきくん、さっきからずっとはぁはぁしてるし…」
 なんかその言い方はあやしいぞ、愛佳。
「他にあたしに何か出来ることがあればいいんだけど」
 そう言って、愛佳はお弁当のおかずをつまんで、俺に
差し出してくれる。
 あ~ん、ぱくり。
 いつもなら到底恥ずかしくて出来ないことが、今日は
すんなりと出来てしまう。
 頭がぼんやりしているせいか、あまり周りのことが
気にならない。いや、気にする余裕がない。
 俺が素直にお弁当を食べているのがうれしいのだろう、
俺を心配しながらも愛佳はうれしそうな笑顔だった。



「やれやれ、見せ付けてくれるわね~タカ坊?」
「大丈夫?タカくん」
「……あれ、タマ姉にこのみ。いつからそこにいたんだ?」
 ふと気が付けば、タマ姉とこのみが目の前にいた。
 いつものようにレジャーシートを敷いて、仲良く
お弁当を食べている。
「いつからって、私たちのほうが先にいたんだけど」
「そうだったっけ?」
「そうですよぉ~。たかあきくん全然気づかないんですから」
 愛佳に聞いてみると、そういうことらしかった。
「まあふたりの微笑ましい様子が見られたからいいけどね?」
 冷やかすようなタマ姉の声に、愛佳は首筋まで真っ赤に
なっていた。



「でもタカくん。さっきからずーっとつらそうだけど、ほんとに
大丈夫なの? 保健室で休んだほうがいいんじゃ……」
「そうよタカ坊。無理するのはよくないわよ」
 それは俺もわかってはいるのだが、愛佳との時間を少しでも
たくさん作りたいから、とは口が裂けても言えなかった。
「平気平気。ちょっと横になればよくなるから」
 俺がそう言って横になろうとすると、
「じゃあ、タマお姉ちゃんが膝を貸してあげるから、ここに
頭を乗せなさい」
 タマ姉が自分の膝を指差した。



 そ、そんな恥ずかしいこと、できるかーっ!



「いやなんだ、タカ坊……」
 俺のいやそうな表情を見て、タマ姉が表情を曇らせる。
「じゃあ、小牧さんの膝枕ならいいのかしら?」
 曇らせたと思ったら、ころっといつものニンマリ笑顔を
浮かべてタマ姉は言った。
「あ、あ、あたしですか??」
 突然話を振られて驚く愛佳。
「あ、その、膝枕がいやってわけじゃないんですよ?……なのよ?
たかあきくんなら……ってあたし何を言って……はぅ~」
 軽くパニックになる愛佳は、いつもと同じだった。



「じゃ、じゃあ……ど、どうぞ」



 は?
 愛佳は顔を真っ赤にしながら、自分の膝を差し出してきた。
「えっ、あっ……い、いいの?」
「は、はい」
 どっくん、どっくん、どっくん、どっくん。
 なんか心臓が急にばくばくしてきた。
 ごくり。
 思わずつばを飲み込む。
 愛佳の膝枕。あのやわらかそうなふとももに、俺の頭が……。
 愛佳を見ると、目をぎゅっと瞑ってふるふると震えている。
 そんなに緊張されると、こっちは逆に落ち着いてくるな。
 俺はそーっと指を伸ばして、愛佳の膝小僧をつっついてみた。
「わひっ?」
 びくん!と跳ねる愛佳。
 それでも懸命にガマンしている愛佳。
「イタズラしてんじゃないの」
 ゴツン
「いてっ」
 タマ姉に怒られた。
 しかたなく、俺は普通に愛佳の膝に頭を乗せようとした。



 きーんこーんか-んこーん



 その時、昼休みが終わりのチャイムが鳴り響いた。
 はぁっ?
「おしかったね」
 タマ姉が俺の肩をぽんと叩いた。
「ちょ、ちょっとだけ残念だったかも……」
 愛佳はというと。
 安心したような残念なような微妙な笑顔を浮かべていた。 















おわり












自分の身体状態からSS錬成してしまいました。
ほんとに大丈夫なんでしょうか(ぉ
鼻がつまって呼吸ができないとほんと何やりはじめるか
自分でもわかりませんよ(笑



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