2005/08/26

真夏の巡り会い (処女はお姉さまに恋してる)(周防院奏)



業務報告~。
読み物広場に、SS「真夏の巡り会い」を追加しました。
おとボクのヒロイン、奏ちゃんこと、周防院奏さんの聖誕祭用のSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうから
どうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。





真夏の巡り会い(処女はお姉さまに恋してる)(周防院奏)



 じりじりと照りつける太陽がまぶしく輝く季節。
 連日のように記録更新の猛暑となっている今年の夏、恵泉女学院の
お嬢様方も夏休みということで、大半の生徒が帰省していた。



「お姉さまにお会いしたいのですよ……」
 夕食を食べた後、奏は寮の食堂でお茶を飲んでいた。
 寮に住んでいる生徒たちも奏を除いて、みんな帰省していた。
そのため、今寮にいる生徒は奏ひとり。
 寮母さんは残ってくれているけれど、夏休みがはじまってから数週が
経過した今まで、奏はほぼひとりで日々を過ごしていたのだった。



 ある日の朝。エルダーシスターで奏の大好きなお姉さま、宮小路瑞穂の
部屋の前を通った時、部屋の中からかすかに物音が聞こえた。
��もしかして、お姉さまがお戻りになったのでしょうか?)
 奏は大好きなお姉さまがそこにいると思うとはやる気持ちを抑えきれず、
瑞穂の部屋のドアをノックしていた。
 すると。



「お帰りなさいませ、お姉さま~~~ああぁぁ???」



 けたたましい声と共に出てきたのは瑞穂ではなく、幽霊の一子がドアを
通り抜けて出てきたのだった。
「い、一子さんなのですか?」
 一子は奏をすり抜けて、おまけに寮の壁までもすり抜けて出て行って
しまった。
��一子さんはお姉さまと一緒に行ってしまったものだとばかり思って
いたのですが……。)
 奏が驚いて立ちすくんでいると、一子が壁の向こうからゆっくりと
戻ってきた。
「あはは……、ノックの音が聞こえたものですから、てっきりお姉さまが
お帰りになられたものだと思って、いつものように飛びついてしまい
ました……」
 照れくさそうに笑う一子。
 お姉さまが大好きな一子は、いつも瑞穂に飛びついているのだった。
 幽霊の一子だが、なぜか瑞穂にだけは触れることができるのだ。
「奏、夏休みになってから一子さんをお見かけしなかったものですから、
お姉さまと一緒だとばかり思っていたのですよ」
「私もできればご一緒したかったところなのですが、残念ながら寮の
敷地から外に出ることができないんですぅ~」
 一子はがっくりと肩を落としている。
「ごめんなさい、奏ちゃん。びっくりさせちゃいましたよね」
「いいんですよ、一子さん。奏もお姉さまのことが大好きですから、
一子さんの気持ちはよくわかるのですよ~」
 ふたりとも瑞穂のことが大好きだから、お互いの気持ちがよくわかるの
だった。



 久しぶりに一子と会ったので、奏は自分の部屋に一子を招いていた。
「一子さん、今までどちらに行ってらっしゃったんですか?」
 奏のごく自然な質問に、うーんと考え込む一子。
「それが、お姉さま方をお送りしてから記憶がないんです……。おそらく、
ずっと眠っていたんじゃないかと思うんですけど……」
 幽霊である一子にしか出来ない芸当だった。
「それにしても、ちょっと寝ている間にすっかり真夏になってしまい
ましたねぇ…」
 眩しそうに窓の外の景色を眺める一子。
 燦々と照りつける真夏の太陽の日差しは、何もかもを真っ白く包み
込んでいる。
「そう言えば、お姉さまにはじめてお会いしたのも、こんな真っ白な
日のことでした……」
 一子はぼんやりと窓の外を見ながら話し始めた。
 それは、一子が今のエルダーの瑞穂ではなく、当時のエルダーの
宮小路幸穂にはじめて会った時の話だった……。



 その日の午後、奏は夏休みの宿題をするために、学院の図書館に
向かっていた。
 自分の部屋で黙々と宿題をしているよりも、図書館のほうが集中しやすいし、
何よりクーラーも効いているし。
 並木道を歩いていると、眩しすぎる太陽のせいで視界がほとんど真っ白に
なり、一瞬現実なのか夢なのかわからなくなるぐらいだった。
「今日は、ほんとに、暑いのですよ~……」
 暑さでへろへろになりながら、奏はようやく図書館に辿り着いた。
 図書館の扉を開くと、ちょうど緋紗子先生が出てくるところだった。
「あら、周防院さん、こんにちは。夏休みの宿題かしら?」
「梶浦先生、こんにちはなのです~」
 奏はぺこりとお辞儀をする。
「私はちょっと用事で職員室に行っていますから、何かあったら職員室まで
来てね。今、図書館には誰もいないから」
「え、もしかして奏だけなのですか?」
「ええ。貸切みたいなものね。うふふ、どうぞごゆっくり」
 楽しそうに笑うと、手をひらひらと振って緋紗子は歩いていった。
 図書館の中を見回すと、確かに誰もいなかった。
��ちょっと寂しいですけど、仕方ないのですよ…)
 奏は窓際でも日陰になっている席に座った。
 ここなら、グラウンドで練習している運動部の姿を見ることが出来るから。
��さて、がんばるのですよ~)
 奏は夏休みの宿題を取り出すと、元気よく問題に取り掛かるのだった……。



 二時間後。
 ちょうど宿題にキリがついたところで、奏は休憩することにした。
 奏が図書館に来てから、今日はまだ誰も来ていない。
 普段なら人目が気になって出来ないが、今この図書館には奏ひとりきり。
 精一杯身体を伸ばして、机を枕代わりにして横になってみる。
 すると、クーラーも程よく効いているので、段々と眠気が押し寄せてきた。
「なんだか、奏、眠くなってきたのですよ……」



 ゆさゆさ
 誰かが身体を揺さぶっている。
 徐々にぼんやりしていた頭がはっきりして、奏は目が覚めました。
「あ、あのごめんなさいなのです~……」
 恥ずかしさのあまり、立ち上がって謝ると、くすくすと笑う声が聞こえ
ました。
「うふふ、どうして謝っているのかしら? 別に私は怒っているわけでは
ありませんよ」
 顔を上げると、そこには。
「お、お姉さま?」
 宮小路瑞穂お姉さまがいらっしゃいました。でも、確かまだお姉さまは
ご実家から戻られていないはずなのですが……。
 すると、お姉さまは少し申し訳無さそうなお顔で、こう仰いました。
「ごめんなさいね。申し訳ないけど、私はあなたのお姉さまではありません」
 でも、奏には信じられませんでした。
 だって、目の前にいらっしゃるのは、まぎれもなくお姉さまのお姿に
そっくりだったのですから。
「でも、あなたみたいな可愛い子が妹だと、とっても素敵でしょうね」
 そう言って微笑むお顔は、瑞穂お姉さまの笑顔とすごく似ていました。
「か、奏は可愛くなんて……」
 かぁっと顔が赤くなるのがわかりました。
「そうだわ。もしよかったら、少し付き合ってくれませんか?」
 え?
 突然のことに戸惑っている奏の手を引いて、その方は歩き始めました。
 少し強引だとは思いましたが、どうしてか嫌な気持ちではなく、
あたたかいその方の手をそっと握り返して、奏は着いていきました。



「ここよ」
 奏が歩いたことのない廊下や階段を通って辿り着いたところに、
その扉はありました。
「さ、開けてみてちょうだい」
「わ、わかりました」
 その人に言われるがままに扉を開けると。
 そこには、奏の身長よりも大きな向日葵がたくさん咲き誇っている
場所でした。
「す、すごいのですよ~……」
「でしょう。私のお気に入りの場所なのよ」
 その方は、ゆっくりと向日葵の側に近づいていく。奏もつられるように、
その人の側に。
 太陽はとっても高く、日差しは燦々と降りそそいでいましたが、
とっても気持ちの良い涼しい風が私たちの身体を吹き抜けていきました。
「あの、ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
 あたたかくその人は微笑んでくださいます。なんだかその微笑み方が
ちょっと瑞穂お姉さまに似ていらっしゃって、奏はどきどきしてしまい
ました。
「あ、あの……どうして奏をここに連れてきてくださったんですか?」
「……どうしてかしら」
 その方はきょとんとした顔で奏を見つめました。
 あ、あの奏どきどきしてしまうのですけど……。
「見せてあげたいなって思っただけなの。それとお礼も兼ねてるのよ?」
「お礼、なのですか?」
 奏、何かお礼されるようなことしたのでしょうか。
「いつも、瑞穂のこと、ありがとうございます。奏ちゃん」
 え?
 ふと気づくと、その方はいなくなっていました……。



 ゆさゆさ
「周防院さん、起きて。周防院さん?」
「え、は……はい、なんでしょうか?」
「そろそろ図書館を閉めようと思うんですけど、いいかしら?」
 気がつくと、奏の目の前に梶浦先生が少し困ったような表情で立って
いました。
「あ、す、すみませんのですよ~……」
��奏ったら、ずっと眠っていたのですよ……。)
「ごめんね。とっても幸せそうだったから、なるべくなら起こしたく
なかったんだけど」
「奏、そんなに幸せそうでしたですか?」
 緋紗子はにっこりと笑うと、ポケットから包み紙を取り出すと奏に
向かってほうり投げた。
「……薄荷味、ですか?」



 寮に帰る途中で、奏はふいに気がついた。
��もしかして、あの方が一子さんの仰っていた、お姉さまの……)
 奏は緋紗子がくれた薄荷味のキャンディーを取り出した。
 あの夢のような、そうでないような不思議な出会いは、まるでこの
キャンディーのように。
 それは、瑞穂が寮に戻ってくる数日前の、眩しいくらいに真っ白な
夏の日の出来事だった。
























おわり♪


















あとがき
PCゲーム「処女はお姉さまに恋してる」のSSです。
ちょっと難しかった……です。
なんか色々悩んでちょっと不思議な内容になりました。
では次回予告~。



まりや「11月、それは銀杏が舞う季節」
由佳里「慌しい毎日の中、会長さんの心安らぐひとときが」
奏「あるのかも? しれないのですよ~」
貴子「なんだか、すごく微妙な表現ですね……」
瑞穂「次回、処女はお姉さまに恋してるSS。『晩秋のティータイム』」
まりや「ま、あまり期待しない方がいいんじゃないの~?」
紫苑「楽しみにしているといいことがあるかもしれませんね♪」
瑞穂「それは、紅葉が姿を消す頃の、11月の物語……」






それでは、また次の作品で。
��005年8月26日 周防院奏ちゃんのお誕生日~



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