2005/08/31

白熱のサマー・バケーション (ToHeart2)(十波由真)



業務報告~。
読み物広場に、SS「白熱のサマー・バケーション」を追加しました。
ToHeart2のヒロイン、十波由真さんの聖誕祭用のSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうから
どうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。





白熱のサマー・バケーション(ToHeart2)(十波由真)



「これで勝ったと思うなよ~~~~~~!」
 いつものように、由真は捨てゼリフを残して泣きながら去って
いった。
 毎度のこととはいえ、よく飽きないなあと思う。ある意味賞賛に
値するよ。
 俺は勝利の美酒、というわけではないが、自販機でスポーツ
ドリンクを買い、一気に飲み干した。



 太陽がまぶしく輝く季節。梅雨の水不足もそれほど深刻な問題
にはならなかった今年の夏もそろそろ折り返し地点を過ぎていた。
 そして、夏休みの残りもあと一日となっていた。
 夏休みに突入してからというもの、何日かに一回の割合で俺は
由真の襲撃を受けていた。
 十波由真。
 はじめて会ったときから、どういうわけか誤解の連続で、
ついにはお互いが出会えば何かで勝負するような関係になって
しまっていた。
 俺としては無理に競争するつもりはサラサラないんだけど、
由真のほうから
つっかかってくるんだから仕方ない。降りかかる火の粉は
払わなければヤケドしちゃうからな。
 ってなことを、クラスの委員長であり、由真の親友でもある
小牧愛佳に話したところ、
「へぇ~、そうなんだ~。でも、河野くんと話している由真は
すごく楽しそうにしてると思いますよ」
 なんて言われた。……ほんとかよ。
「それに、河野くんも楽しそうにしてますよ?」
「そ、そんなことないよ」
 即座に否定したが、委員長は意味ありげな含み笑いをする
だけだった……。



 飲み干したドリンクの空き缶をゴミ箱に投げ入れ、さあ
帰ろうかと振り返ったとき、突然耳に激痛が走った。
「いたたたたた、タ、タマ姉?」
「タカ坊、いかなる理由があっても、女の子を泣かせるなんて
男失格だとタマお姉ちゃんは思うんだけど」
 幼馴染でひとつ年上。親友の雄二の姉。向坂環、通称タマ姉が
俺の耳を引っ張っていた。
「タマ姉、いつから見てたの?」
「ん? たった今来たところよ。あの子が泣きながら走って
いくのが見えたから、タカ坊におしおきしようと思って」
 俺が泣かしたことになっているのが納得できないんだけど。
「でも、そうなんでしょ?」
 ま、その、結果的には。
「手加減しろとは言わないけど、好きな女の子にならもう少し
やさしくしてあげなさい」
 そう言って、ようやくタマ姉は俺の耳を離してくれた。
 や、だからなんで好きな女の子になってるんだか。
「そうなんでしょ?」
 う、まーその、むー。
「タマお姉ちゃんはね、タカ坊のことならなんでもお見通し
なんだから♪」



 タマ姉に言われたからってわけじゃないけど、明日に備えて
いろいろ準備をして、俺はゆっくりと眠りについたのだった。



 ぴんぽ~ん
 朝も早くから玄関の呼び鈴の音が響き渡った。
 くっ、誰だよ、こんな早くに……。
 時計を見ると朝の7時。夏休み最後の日の朝ぐらい、のんびりと
惰眠をむさぼってもいいと思うんだけどなあ。
 ぴんぽんぴんぽ~ん
 あーもう、今行くから。
 ダッシュで階段を駆け下りてドアを開ける。するとそこには、
「おはよう、たかあき! ……って、なんだか冴えない顔してるわね」
 由真がいつもと同じように立っていた。
 朝っぱらからやってきて冴えない顔とか言われてもなあ……。
「まあいいわ。早速出かけるから、準備して来なさいよ」
「唐突に言われても困るんだが」
 唐突なのはいつものことだから慣れているけど、とりあえず
つっこんでおく。
「いいからいいから。あたしにまかせておきなさいって♪」
 この自信はいったいどこから来るんだろうか。
 やたら不安ではあるが、せっかく機嫌が好いのに余計なことを
言って水を差すのも大人気ない。
「わかった。ちょっと待ってて」
 俺は準備をするために、いったん部屋に戻ることにした。
「女の子を待たせるんじゃないわよ~」
 そんな声が階下から聞こえてきた。
 つか、そんなデカイ声で叫ぶと近所中に聞こえると思うんだが……。



 電車を乗り継いで俺たちは。
「今日は遊園地で勝負よ!」
 遊園地の前に立っていた。
 や、話が全然見えないんだけど。
 俺が説明を促すと、由真はカバンから封筒を取り出し、中から
チケットを一枚俺に差し出す。
「お、おじいちゃんがくれたの。せ、せっかくだからアンタに
あげようかなって」
 おいおい、急にしおらしくなられると、こっちもなんだか
恥ずかしくなってくるだろ。
「は、早く受け取りなさいよ……」
「あ、ああ」
 俺はおずおずとチケットを由真から受け取る。その際、
ちょっとだけお互いの指が触れ合った。
「きゃわぁ?」
「おわっ」
 きゃわあ? ってどんな悲鳴だよ。思わず俺も驚いたじゃないか。
 見ると、由真は顔を真っ赤にしている。
 や、あの、なんだかいつもと反応が違うんですけど。
「い、行くわよ」
「お、おう」
 こうして俺たちは遊園地に入っていった。
 いつもと違う由真の雰囲気に、俺は戸惑いの色を隠せなかった。



 ところが。
「ほらたかあき。今度はあれよ、あれにしましょ!」
 入場の時の雰囲気はどこへやら。
「ちょっと、ひ、ひとりでイっちゃダメなんだからぁ……」
 いろんなアトラクションを回り始めると。
「そ、そこ。そのまままっすぐ……」
 いつもどおりの、普段どおりの元気な由真だった。
「きゃあー! 気持ちいいーーー!!!」
 つ-か、元気良すぎじゃないか?



「ふ~、やっぱり遊園地はこうやって楽しまないとね!」
 さすがに入場してからずっと動きっぱなしだったので、少し
遅めの昼食を食べながら俺たちは休憩していた。
「そう言えば、勝負とか言ってなかったっけ?」
「……あ」
 俺が何気なく言った一言に固まる由真。
 どうやら、すっかりそんなことは忘れていたらしい。
「い、いいじゃないの! ……は……日なんだし、夏休み最後
なんだから」
 ちょっと聞き取れない部分もあったけど、その意見には俺も
同意だ。
「そうだな。せっかくの遊園地だし、楽しまなきゃな」
 俺がそう言うと、由真はうれしそうに笑った。
 その笑顔はすごく自然で、不覚にもかなりどきどきしてしまった。
 くっ、な、なんか可愛いじゃないか……。
「どしたの、たかあき?」
 食事の手が止まってる俺を怪訝に思ったのか、由真が尋ねてきた。
「や、なんでもない。そ、それより次は何に乗る?」
「えっとね……うん、観覧車」



 遊園地の中で、一番静かな乗り物といっても過言ではないだろう、
観覧車に俺たちは乗り込んだ。
 一周約20分。のんびりとした空の旅だ。
 ゆっくりゆっくりと、俺と由真を乗せたゴンドラは登り始める。
 地面を見ると、ちょうどパレードの時間らしく、派手な衣装の
マスコットがたくさん歩いていた。
「今パレードの真っ最中だな」
「うん」
 ……。
「見なくてよかったのか?」
「うん……」
 ……。
 微妙に会話しにくいな。
 でも、せっかくふたりっきりなんだし、ここは俺から切り出すか。
「あのさ、由真」
「?」
「た、たた……」
「??」
 俺は準備していたプレゼントを取り出すと、由真の目の前に
差し出した。
「誕生日、おめでとう!!」
「……え?」
 由真はびっくりしたのか、固まっている。
「実は、小牧さんから聞いててさ。たいしたものじゃないけど、
プレゼント」
「あ、ありがと……」
 由真がプレゼントを受け取ろうと身体を乗り出したその時、
突然の強風でゴンドラがぐらりと揺れた。
「きゃわあ?」
「あぶないっ!」
 俺はバランスを崩した由真を、とっさに抱きかかえた。
 …………。
「だ、だいじょうぶか?」
「う、うん」
 …………。
「……あ、ありがと」
「え、何?」
「な、なんでもないわよ」
 由真は恥ずかしそうに顔を背けた。
「どういたしまして」
「!……聞こえてるんじゃないっ」
 ぽかり
 怒られた。
 恥ずかしそうにしている由真もいいけど、怒ってるほうが由真
らしいかな、と思う。
 本人には絶対に言えないけど。



 翌朝、夏休みも終わって、2学期の始まりの日。
 俺はぼんやりと歩いていると、
「おはよう、たかあき!」
 と声をかけられた。
「よ」
 俺は片手を上げて挨拶した。
「先に校門に着いたほうが勝ちだからねー」
 と言うが早いか、由真は愛用のマウンテンバイクを発進させた。
 あ、汚ねっ!
 俺は負けじとダッシュするのだった。
 まだまだ夏の暑い日が続くように、俺たちの競争の日々は続くの
だろう。
 ま、もう少しはこんな関係でもいいかもな。
 由真のカバンには、タコさんのキーホルダーがふたつ、仲良く
ぶらさがっていた。




































おわり♪


















あとがき



PS2ゲーム「ToHeart2」のSSです。
なんて言うのかな、夏休みの宿題のように、最後にあわてて
書きました、みたいな。
由真のようないわゆるツンデレ系は、少し難しかったです。
次はもっとうまく書けるといいなあ。
それでは、また次の作品で。



��005年8月31日 由真の誕生日、そして、8月最後の日(えー



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