2005/11/19

晩秋のティータイム (処女はお姉さまに恋してる)(厳島貴子)



業務報告~。
読み物広場に、SS「晩秋のティータイム」を追加しました。
おとボクのヒロイン、厳島貴子さんの聖誕祭用のSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうから
どうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。



ちょっとだけ注意事項を申し上げますと、ゲーム本編とは若干設定が
異なってますので、あまり細かいところを気にしないようにお願いします~。





晩秋のティータイム(処女はお姉さまに恋してる)(厳島貴子)



 今年のカレンダーも残りが少なくなってきた11月。
 季節は秋から冬へと移り変わりつつあったが、恵泉の生徒たちは月末に
開催される学院祭の準備に、それぞれ忙しい日々を過ごしていた……。



「では、お姉さまが劇の主役、ということですか?」
 11月にしてはあたたかい日の光が降り注ぐ食堂で、由佳里ちゃんが
目をきらきらさせながら聞いてきた。
「主役……やっぱりそうなのかしら」
 僕は心の中でこっそりとため息をついた。
 学院祭では、それぞれのクラスの催し物に加えて生徒会が主催する
演目もある。特に決まりがあるわけではないのだが、毎年『演劇』が
行われるのが通例となっているようで、今年もそれは変わらないようである。
「お姉さまはエルダーなのですから、きっと学院中のみんなが楽しみに
していると思うのですよ~」
 奏ちゃんがミックスサンドを両手に持ちながら微笑む。
「期待されるのは光栄なこと、だとは思うんですけどね…」
 学院祭の生徒会主催の劇に出演することにしたのは僕なんだけど、
もちろん今までに演劇の経験なんてまったく無い身にとっては、不安にも
なろうというものだ。
「あの、お姉さま。少々お時間を拝借してもよろしいでしょうか?」
 声をかけられたのでそちらのほうを見ると、貴子さんが立っていた。
「はい、私は構いませんけど…」
「では、テラスのほうまでお願い致します。そちらは周防院さんに……
上岡さんでしたね。申し訳ございませんが、お姉さまをお借りしますね」
 貴子さんは律儀にも奏ちゃんと由佳里ちゃんに声をかけると、
ゆっくりと歩いていった。
 心なしか、その背中はいつもの貴子さんとは違っているような気がした。
「それじゃあ私も行きますね。奏ちゃん、由佳里ちゃん、またね」
 ちょうど昼食を食べ終わっていた僕は、空の食器を持って席を立った。
 後に残された奏と由佳里は、
「……会長さん、お姉さまにどんなお話なんでしょう。ね、由佳里ちゃん?」
「う~ん、全然わからないなあ。夕食の時にでもお姉さまに聞いてみたら
いいんじゃないかな?」
 ふたりとも頭にはてなマークを浮かべるのだった。



 テラスに行ってみると、貴子さんが一人で待っていた。
「お待たせしました、貴子さん」
「いえ、こちらこそご足労頂きまして申し訳ございません」
 このテラスは時々利用しているけれど、今日は僕たちのほかには誰も
いない。それはやはり、11月も半ばということで少々寒いからだろうか。
 わざわざ貴子さんがここを選んだということは、他の誰かに聞かれたく
ない話がある、と考えていいだろう。それは食堂で話をしなかったこと
からもわかるのだけど、いったいどんな用事があるのだろう。
 貴子さんはというと、普段の彼女からはちょっと想像できないんだけど、
少し迷っているような感じだった。話しにくいこと……なのだろうか?
 そんなことを考えていると、貴子さんはついに決意したのだろう、
僕のほうをしっかりと見て話し始めた。
「あの、生徒会主催の演劇のことでお伺いしたいのですが、お姉さまは
今までに演劇の経験は無い、ということを人づてに聞いたのですが……」
「はい。ちゃんとした演劇の経験はまったくありません」
 僕は、はっきりとそう答えた。
 幼稚園の頃にみんなで劇をやった記憶はあるけど、きっと貴子さんが
聞きたいのはそういうことじゃないと思うしね。
「そうですか。実は……私も演劇の経験というものはないのです」
「え、そうだったんですか……」
 生徒会主催の演劇の題目は『ロミオとジュリエット』で、僕がロミオ役、
貴子さんがジュリエット役に
選ばれている。これは恵泉の生徒からの投票が一番多かったからだそうだ。
確かにエルダーと生徒会長ともなればみんなの注目を集めるのは当然
だろうとは思う。とはいえ……。
「と言うことは仮にも主役の二人が、揃って演劇未経験者なんですね」
「ええ、そうなんです……」
 少し冷たい風を身体に受けて、柔らかい髪を揺らしながら貴子さんは
不安そうな表情を浮かべている。
「そこでお姉さまにお願いがあるのですが、聞いていただけますか?」
 貴子さんは真剣な表情で僕を見つめている。
 この時、なんとなく貴子さんの言いたいことがわかったような気が
したので、
「……内容にもよりますが、私に出来ることなら出来る限りご協力させて
いただきますけど」
 と、僕は言った。



「ただいま帰りました」
 寮に着いた僕が声をかけると、奥からぱたぱたと足音を立てて
奏ちゃんが出迎えてくれた。
「お姉さま、お帰りなさいませなのですよ~……?」
 奏ちゃんは僕の後ろに控えていた人を見て、一瞬動きが止まる。
「か、会長さんなのですか?」
「こ、こんばんは周防院さん」
 慣れない場所だからなのか、貴子さんはちょっと緊張している様子だ。
「ちょっと用事があるので来ていただいたの。奏ちゃん、後でお茶を持って
きてくれるかしら?」
「は、はい、わかりましたなのです~」
 僕の言葉で止まっていた奏ちゃんはあたふたと食堂へと向かった。
 やっぱりまだ少しぎこちないなあ……。
 それもそのはず。奏ちゃんが着けている大きなリボンのことで、
貴子さんと揉めたのはつい先月のことなのだから。
 貴子さんが普段どおりでないのも、初めて訪れる場所ということの他に、
奏ちゃんとのことも頭によぎっていたのかもしれない。
 だからと言って、僕にはどうすることもできない。こればかりは当人
同士の問題なのだから。
 貴子さんも悪い人ではないし、校則を守るという観点から見れば間違った
ことをしていたわけではないから、気にすることではない……とは言っても、
なかなか簡単にはいかないものかもしれない。
「それでは私の部屋に行きましょうか」
「は、はい」
 上るたびにぎしっぎしっと音を立てる階段をゆっくりと歩きながら、
僕はお昼休みの貴子さんの言葉を思い出していた。






「私と、演劇の練習をしてはいただけないでしょうか」
 貴子さんの用事というのは、これだった。
 責任感の高い貴子さんことだから、いくら経験の無い演劇といっても、
他の人の迷惑にならないようにしたいのだろう。
「それは、みんなで合同の練習以外に一緒に練習しよう、ということ
でしょうか」
「はい。お姉さまがお忙しいことは承知しておりますので、無理に、
とは申しません。ですが、私はいくら気の進まないこととはいえ、
みなさんに選出された以上、できるだけがんばりたいと思っています」
 気の進まないこと、とは演劇のことを指しているのだろう。僕も
同じような立場なので、貴子さんの気持ちはよくわかるつもりだ。
奏ちゃんががんばっている姿を見なかったら、僕も演劇に参加することを
躊躇っていただろうから。
 真剣な表情で僕の目を見て話をする貴子さんは、生徒会長らしい
生真面目さと、それだけではない貴子さん自身が持っている何かが
あるように感じられた。
「わかりました。私も演劇の経験はありませんが、貴子さんがご一緒
してくださるのなら心強いです。こちらこそ、よろしくお願いします」






 あの時の貴子さんの表情、すごく嬉しそうで、とても可愛らしかったなあ。
「ふふっ……」
「あ、あのお姉さま。私の顔に何か付いてますか?」
 え?
「先ほどから私の顔を見られているような気がするものですから……、
私の勘違いであればいいのですが」
 うっ、自分でも気づかないうちに貴子さんの顔を見ていたみたいだ。
「あ、こちらです。突き当たりが私の部屋になります」
 少し強引に話題を転換しつつ、そう言えばクラスメイトの紫苑さん、
圭さん、美智子さん以外はほとんど人を呼んだ事がなかったなあ、と思った。
 それは女装してることがバレないように配慮していることもあるけれど、
やっぱり寂しいことだよね……。
 今回は学院で演劇の練習をするわけにもいかないので、学院に近い
この場所を提供しただけのつもりだったけど、もしかしたらそういう
気持ちも少しあったのかもしれない。
 そんなことを考えているうちに、僕の部屋の前に到着した。
 何か大事なことを忘れているような気もしたが、いつまでも立ち止まって
いるわけにもいかないので、僕は部屋の扉を開けた。
「どうぞ、貴子さん」
 と言うと同時に、
「お帰りなさいませ、お姉さま~~~!!!」
 一子ちゃんがいつものように飛び出してきた。
 って、一子ちゃんっ?
「きゃあっ?」
 貴子さんは突然出てきた一子ちゃんにびっくりしてしまい、倒れそうに
なったところをあわてて僕は支えた。
「だっ、大丈夫ですか、貴子さん?」
「あっ、はい。え……と、今の方はいったい……?」
 ううっ、一子ちゃんのことをいったいどうやって説明したらいいんだ……。
 そこへ、壁を通り抜けて戻ってきた一子ちゃんが貴子さんの目の前に
現れた。……うわー。
「え、い、今……かべを……ええっ??」
「あ、あのっどうもすみません驚かせてしまいまして……」
 一子ちゃんが頭を下げて貴子さんに謝った。けど、それって逆効果
なんじゃあ……。
「しゃ、しゃべ……そ、それに」
 貴子さんの目は一子ちゃんに注がれる。床から浮かんでいる足、
向こう側の壁が透けて見える半透明な身体。そのどれもが、一般的に
『幽霊』と呼ばれているものに間違いなかった。
「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆう、幽霊…………い、いやあああああああ~~~!!!」
 寮中に貴子さんの絶叫が響き渡った。
「………………………きゅう~」
「ああっ、貴子さんっ?」
 あまりの出来事に貴子さんは気を失ってしまった。
 ど、どうしよう……。
 貴子さんの絶叫を聞いて駆けつけてくるまりやたちの足音を聞きながら、
僕は貴子さんを抱えて立ち尽くすのだった…………。






























to be continued…















次回予告。



まりや「11月、それは銀杏が舞う季節」
由佳里「慌しい毎日の中、会長さんの心安らぐひとときが」
奏「あるのかも? しれないのですよ~」
貴子「って、なんだか私、気絶してるようなのですが……」
一子「はうぅ、すみませんです~~~……」
紫苑「大丈夫です。きっと次回は素敵なことになると思いますわ♪」
瑞穂「次回、処女はお姉さまに恋してるSS。『晩秋のティータイム(後編)』」
まりや「今回のタイトルには(前編)って付いてないんだけど~?」
由佳里「それは言っちゃダメですよ、まりやお姉さま」
瑞穂「それは、紅葉が姿を消す頃の、11月の物語……」






それでは、また次の作品で。



��005年11月19日 厳島貴子さんのお誕生日~から3日後(ぇ



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