2005/11/24

晩秋のティータイム (後編) (処女はお姉さまに恋してる)(厳島貴子、高島一子)



業務報告~。
読み物広場に、SS「晩秋のティータイム (後編)」を追加しました。
おとボクのヒロイン、高島一子さんの聖誕祭用のSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうから
どうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。



ちょっとだけ注意事項を申し上げますと、ゲーム本編とは若干設定が
異なってますので、あまり細かいところを気にしないようにお願いします~。
また、前編から読んでいただけると幸いです。





晩秋のティータイム (後編)(処女はお姉さまに恋してる)(厳島貴子、高島一子)



「う、う~ん……」
 うなされている貴子さんを、一子ちゃんが不安そうな表情で見つめている。
 ここは学生寮の僕の部屋。今は、気絶してしまった貴子さんが僕の
ベッドで眠っている。
 どうしてこんなことになっているかと言うと、学院祭の生徒会主催の
演劇の練習をするために貴子さんに寮まで来てもらったんだけど、出迎えて
くれた一子ちゃんを見て貴子さんが気絶してしまったのだ。
「私のせい……ですよね」
 消え入りそうな声で呟いたのは、一子ちゃんだ。
 一子ちゃんが出迎えてくれるのはいつものことだから、普段は問題ないん
だけど今日は少し運が悪かった、と言いたいところだけど……。
「ううん、一子ちゃんのせいじゃないわ。私の注意が足りなかったからよ」
 そう、お客様を連れて来る時は特に気をつけないといけないのに。
「でも、お姉さま……」
 何かを言いかける一子ちゃんのくちびるに指を当てて静かにさせる。
「いいのよ。それよりも、貴子さんに一子ちゃんのことを紹介しようと
思うんだけど、いいかしら?」
「あ、……はい。私は構いませんが……会長さんは大丈夫でしょうか……」
 心配そうな目で貴子さんを見ている一子ちゃん。
 それもそうだろう、自分が幽霊であることを自覚しているとは言っても、
相手を驚かせようとしているわけではないのだから、一子ちゃんにとっても
ショックだと思う。
「うん。貴子さんなら大丈夫だと思うわ。さっき、まりやとも相談したん
だけど、同じ意見だったわ」
 騒ぎを聞きつけて来てくれたまりやと協力して貴子さんを僕の部屋に運び
込んだ時に、まりやに相談してみたら、まりやも賛成してくれた。
 このまま隠し続けるのも辛いし、何よりも貴子さんに見られてしまった
以上隠し通せるような気もしないしね。それに、こっちの意見が重要
なんだけど、貴子さんなら一子ちゃんのことを知っても、受け入れて
くれると思うんだよね。僕よりも貴子さんとのつきあいが長いまりやも
そう言ってるんだから、きっと大丈夫だと思う。



「あ、お姉さま。会長さん、目を覚ましそうです」
「それじゃあ一子ちゃん。ちょっと隠れててくれるかしら。私が合図
するまで」
「はい。よろしくお願いします…」
 一子ちゃんはクローゼットの中にすーっと入っていった。
 その直後、貴子さんがぱちっと目を開けた。
 2、3回瞬きした後、貴子さんは僕に気が付いた。
「お……姉…さま?」
「気が付きましたか、貴子さん」
 貴子さんは身体を起こすと、周りをきょろきょろと見回す。
「お姉さま、ここは……?」
「ここは寮の私の部屋ですよ。貴子さんは気絶されてしまったので、
私のベッドに運んだんですが……覚えてらっしゃいませんか?」
 僕がそう言うと、貴子さんは頬に手を添えて思い出しているような
しぐさを取った。それが何とも可愛らしい。
「そう言えば、私、何か見たような気がするのですが……あっ……」
 貴子さんの顔がさっと青ざめた。もしかして、一子ちゃんのことを
思い出したのかな。
「あ、あのお姉さま? つかぬことをお尋ねしますが、先ほど……
確か恵泉の制服を着ていた女生徒がいたように思うのですが……」
 あー、やっぱり覚えてるよね……。
「ええ、いましたよ。それでですね、今から私が言うことを聞いて
いただけますか」
「は、はい……」
 貴子さんは僕の雰囲気が伝わったのか、神妙な表情で頷いてくれた。
「実は……にわかには信じられないことだと思いますが、先ほどの子は
……幽霊なんです」
 …………。
 う、貴子さんの反応が無い。
「やはり信じられませんよね……。それでは、一子ちゃん、入ってきて
ちょうだい」
 僕が呼びかけると、一子ちゃんはクローゼットから出てきた。
もちろん扉はすり抜けて、だ。
「ど、どうもはじめまして~……」
 若干引きつった笑顔で挨拶をする一子ちゃん。
 貴子さんはと言うと、目を大きく開いたまま硬直している。
 ま、まずかったかな……?
「ほ、本当に幽霊…………なのですね……?」
 貴子さんの視線は一子ちゃんの足元に注がれている。
「はい……。先ほどは驚かせてしまいまして、申し訳ございません
でした……」
 中に浮かんだまま、ぺこりと頭を下げる一子ちゃん。
「い、いえ、こちらこそお騒がせしてしまいまして……」
 ベッドの上で頭を深々と下げる貴子さん。
「あ、あの貴子さん、信じていただけましたか?」
 ふたりとも頭を下げあっているので、見かねて僕は口をはさんだ。
「ええ。さすがに実物を目の当たりにしては、信じないわけにはまいり
ませんわ」
 貴子さんは僕を見て、にっこりと微笑んだ。



「実は私、幽霊の類は苦手なのです……」
 奏ちゃんが淹れてくれたお茶を飲んでようやく落ち着いたらしい
貴子さんが、ぽつりぽつりと話してくれた。
 まあ、好きな人はあまりいないとは思うけどね……。
「ですから、先ほども夢を見たんじゃないかと思ったのですが、こうして
目の前にいらっしゃるので、さすがに……」
 信じざるを得なくなった、と。
「それに、一般的なイメージの幽霊だと怖いと感じると思うのですが、
一子さんは……なんと言うか幽霊らしくなくて、それで安心できている
のだと思います」
予想外の貴子さんの言葉に、一子ちゃんは複雑な表情だ。
「あ、ありがとうございます……。と言うか、幽霊なのに幽霊らしく
ないと言われると、果たして私はショックを受ければいいのか悩んで
しまいます~」
 一子ちゃんの言葉に、自然と笑いが起こるのだった……。



 結局、その日は演劇の練習どころではなかったけど、次の日から
僕と貴子さんは合間を見つけては練習に励んだ。一子ちゃんに観客役を
頼んで意見を聞いたりと、素人なりに充実した練習をすることが
出来たと思う。
 その成果は学院祭の本番当日にちゃんと発揮されて、生徒会主催の
演劇は観客全員の拍手と喝采を浴びることになった……。



「もうっ、ほんっとーーーにすごかったのですよ! お姉さまの演技も
会長さんの演技もとってもとっても素晴らしくて、一子はすごくすごく
すごーーーーく感動しました~~~!!!」
 学院祭が無事に終わったので、お疲れ様の意味も込めて、僕は
貴子さんを寮に招待した。
 僕の部屋でささやかながらのお茶会。その席で、一子ちゃんがいつもの
マシンガントークを繰り広げていた。
「一子ちゃん、もしかして見に来ていたの?」
 僕が尋ねると、
「もちろんです! 以前は寮から出ることさえ出来ませんでしたが、
最近は学院の敷地内なら自由に移動できるようになりました」
 と自信満々に答えた。そ、そうなんだ……。
「まあ、一子さんたら。でも、それなら他の催し物もご覧になったのでは
ありませんか?」
「はい! 奏ちゃんのクラスのアクセサリー屋さんも、由佳里ちゃんの
クラスのケーキ屋さんも、まりやさんのクラスのプラネタリウムも
おじゃまさせていただきました!」
 元気いっぱいに答える一子ちゃん。貴子さんも、そんな一子ちゃんを
楽しそうに見つめている。
 あの衝撃の出会いから、まだそれほど月日は経っていないのだけれど、
ふたりはすごく仲が良くなっているみたい。
 一子ちゃんは誰とでも仲良くなれる子だと思っていたけど、貴子さん
とも仲良くなるとはちょっと思わなかったなあ。
 ふたりは案外気が合うのかもしれない。
 以前、まりやが言ってたんだけど、それは名前が似てるからなんじゃ
ないかって。
 「厳島 貴子(いつくしま たかこ)」に「高島 一子(たかしま いちこ)」。
 ほら、なんとなく似てるよね?
「そう言えば、一子さんは物に触ることはできないのですか?」
「はい。会長さんもご存知の通り、私は幽霊ですから……」
 ちょっとしょんぼりした感じで答える一子ちゃん。
「今日はせっかく貴子さんもいらっしゃってることだし、一子ちゃんも
お茶を飲みたいでしょう。私に憑いてもいいですよ」
「よ、よろしいのですか、お姉さま?」
 一子ちゃんが目を輝かせる。
「ええ、私たちばかりでは一子ちゃんに申し訳ないもの」
「ありがとうございます!」
 そう言うと、一子ちゃんは僕の中に入ってきた。
「え、どういうことなのですか?」
 ひとり事情がわかっていない貴子さんのために、僕……ではなく、
僕に憑いた一子ちゃんが答える。
「実は、お姉さまにだけは憑くことができるんです。その時は、私も
みなさんと同じように食事をしたりできるんですよ」
「あ、もしかして、もう『一子さん』になっているのですか?」
 一子ちゃんはこくりと頷くと、新しい紅茶を淹れ始めた。
「普段はお姉さまにお茶を淹れて差し上げたいと思っても、お姉さまの
お身体をお借りしなければできませんし、それにこれではお姉さまの
身体でお茶を淹れて、お姉さまの身体で私がお茶を飲むことに
なっちゃいます。でも今日は……」
 一子ちゃんはよどみない動きで紅茶を淹れると、貴子さんの前に
差し出した。
「このように、会長さんにお出しすることができます」
「まあ……どうもありがとうございます、一子さん。それにお姉さまも」
 貴子さんはゆっくりと香りを楽しんでから、静かに紅茶を飲んだ。
「いかがですか?」
「はい、とってもおいしいですわ」
「ありがとうございますっ!」
 貴子さんが喜んでくれたのがすごく嬉しかったのだろう、一子ちゃんの
気持ちが僕にも伝わってきた。
 それは秋も終わりかけの、でもとても心があたたかくなるティータイム
だった……。


















おわり









あとがき
PCゲーム「処女はお姉さまに恋してる」のSSです。
はじめての前後編になったわけですが……なんだか長いだけかも。
ゲーム本編とは少し設定が変わっていますので、あまり深いところまで
気にしないで読んでいただけると助かります。



次回予告。



貴子「1月、それは新しい年のはじまり」
一子「お正月も終わり、いよいよ3学期がはじまります」
奏「少しずつ近づく卒業の日々」
由佳里「緋紗子先生が選んだものは……」
紫苑「次回、処女はお姉さまに恋してるSS。『真冬の薄荷』」
まりや「なんだか意味深な予告なんだけど~?」
貴子「そう言うことは言わないものですよ、まりやさん」
瑞穂「それは、しんしんと降り積もる雪のように真っ白な、1月の物語……」
それでは、また次の作品で。



��005年11月24日 高島一子さんのお誕生日~



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