2005/12/04

冬空のバースデイ (ToHeart2)(笹森花梨)



業務報告~。
読み物広場に、SS「冬空のバースデイ」を追加しました。
ToHeart2のヒロイン、笹森花梨さんの聖誕祭用のSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうから
どうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。





冬空のバースデイ(ToHeart2)(笹森花梨)



 12月はじめの日は、きれいに澄み切った青空を見ることができる
ような日だった。
 陽射しもあって、部屋の中にいるぶんにはいいんだが、外に出ると
さすがに寒い。
「もう12月かあ……」
 俺は自動販売機で買った缶コーヒーで、手を温めながら呟いた。
 プルトップを開けてコーヒーを飲んでいると、校内放送のアナウンスが
聞こえてきた。
「ぴんぽんぱんぽ~ん。ミステリ研の河野貴明くん。今からミステリ研の
定例会議を行いますので、部室に集合してください」
 うん、俺?
 スピーカーから聞こえてきたのは、ミステリ研の初代会長である
花梨の声だった。
 定例会議ってのは、決められた日に行われるものだと思うん
だけど、花梨はいつも思いつきで会議を開くからなあ……。
「い~い、たかちゃん? ちゃんと来ないと、あの日たかちゃんが
私にしたことを放送しちゃうんだからね~」
 俺は口に含んでいたコーヒーをきれいに全部噴き出すと、
ミステリ研の部室に向かって全力ダッシュを開始した。
「なんでそう言う事を言うかな、笹森さんはっ!」



 ずざざーっと部室の前に辿り着くと、俺は勢いよくドアを開け放った。
「はやかったねっ♪ たかちゃん」
 部室では、花梨が自慢のUFO探知機をいじりながら、昼食を食べていた。
もちろんメニューは当たり前のようにタマゴサンドだ。
「はやかったねっ……じゃないよ! どうして校内放送であんなことを
言うんだよ」
 俺の怒りもどこ吹く風、といった感じで花梨はタマゴサンドを
にこにこしながらおいしそうに食べている。
「だって、たかちゃんと一緒にご飯食べたかったんだもん。それに、
花梨ちゃんは嘘をついてるわけじゃないし」
 うっ、それを言われると確かにマズイ。
 ちなみに、あの日の出来事とは、はじめて花梨にあった日のことだ。
何気ない気持ちでサインした書類が、実は同好会に入会するためのもので
あり、それを取り返すべく、このミステリ研の部室に乗り込んだんだけど、
花梨と揉み合いになって倒れこんだ時に、俺の手が花梨の胸に……。
 思えば、あれが全てのはじまりだったような気がする。まあ、今と
なっては懐かしい思い出であるわけだが。
「だったら、別に放送で呼び出したりしなくてもいいだろ」
 憮然とした表情で近くのパイプいすに座る俺。
 まあ、やってることは花梨らしいといえばらしいので今更怒ることでも
ないのだけど、一応釘は刺しておかないと。
 俺が言うと、花梨は食べ終わったタマゴサンドの包み紙をゴミ箱に
捨ててから、こう言った。
「言ったでしょ。『花梨ちゃんは嘘ついてるわけじゃない』って。
ちゃんと定例議会もやるんだから、ね?」
 だから定例議会ってのは……って言っても仕方が無いか。花梨だもんな。
 俺はあきらめて、会議の内容とやらを聞くことにした。



「さて、今日から12月なんだけど、たかちゃんは12月って言うと何を
思い浮かべるかな?」
 12月? うーん、一般的には師走で忙しいイメージだよなあ。つか、
��2月って言ったらやっぱり。
「クリスマスかな。他には……なんだろ、大晦日とか?」
 俺の答えを聞いて、花梨はちょっとむっとしている。
 あれ、俺何かまずい事でも言ったか?
「たかちゃん、確かにクリスマスも大晦日も大事なんよ? ふたりきりで
過ごせたらいいなって花梨も思ってるんよ? でも、それよりも先に
大切なイベントがあるのを忘れてないかな」
 イベント……ねえ。花梨がらみのイベントって言うと……。
「何だっけ?」
 花梨と付き合い始めた記念日とか、はじめてデートした記念日でもないし。
 考えてもさっぱりわからない俺は、あっさりあきらめて花梨に聞いてみた。
「ふーん、たかちゃんわかんないんだ。花梨ちゃんのとっても大切な日を
忘れちゃってるんだ。花梨ちゃんの生まれた日のことなんてどうでもいいと
思ってるんだ……」
 花梨は机につっぷして、顔を隠して肩を震わせ始めた。
 ……誕生日? そういえば、以前にちらっと聞いたことがあるような
ないような。
 って、もしかして花梨……泣いてるの?
「あ、……ごめん。12月が誕生日だってこと、俺忘れちゃってた。
その代わり、当日は花梨のしたいことをできるだけ叶えるようにするからさ」
 忘れていたのは俺なので、これぐらいのことはしないとな。それに
はじめての誕生日のお祝いなんだから、祝ってやらないとな。
 でも、俺の言葉を聞いて花梨はためいきをついた。
「たかちゃん……私の誕生日、今日なんだけど」
 ……ええっ?
「言うこと、聞いてくれるって言ったよね?」
 こっちを向いて、恨めしそうに見る花梨に、俺はただ頷くことしか
出来なかった……。



 放課後、授業が終わるチャイムが鳴り終わる前に花梨がやってきて、
俺たちは駅前へと繰り出すことに。
 まだ昼の3時過ぎとはいえ、さすがに12月。時折吹き抜けていく風は
冷たく、道ゆく人々は身体を小さくして歩いている。
 そんな中花梨はというと、寒さなど気にもしていないように元気よく
俺の前をとことこと歩いていた。
 花梨の後ろ姿をぼーっと見ながら後についていると、くるりと花梨が
振り向いた。
「たかちゃんのえっち。私のおしりばかりじーっと見ててもダメなんだかんね」
 ……見てない、じーっとなんて見てない。
「ちゃんと気をつけてるから、スカートの中を覗こうとしちゃダメだかんね?」
「そ、そんなことしないから。ただ、花梨は寒くないのかなあと思ってた
だけだよ」
 俺は花梨のおしりから目を背けて言う。や、ちらっと見てたのは否定
しないけど。
「たかちゃんは寒いの? 花梨ちゃんは別に寒くない……ああっ、そうそう
寒いよねえ~」
 花梨はわざとらしく言い直すと、俺の横に周りこんで、俺の右腕を
ぎゅっと抱きしめた。
「ちょ、な、何?」
「うふふっ、花梨ちゃんと~っても寒いの。たかちゃん……あっためて♪」
 花梨は俺の右腕を抱えるように持っている。っていうか、それ思いっきり
胸が当たってるって!
「言うこと、聞いてくれるって言ったよね?」
 …………。
 最高の笑顔で笑いかける花梨に、俺は微妙に引きつった笑顔で答えた。
「しょ、しょうがないなあ。きょ、今日だけだぞ?」
「え~、たかちゃんつれないなあ。とりあえず、今日はオッケーってことで♪」
 というわけで、俺と花梨は腕を組みながら、クリスマスカラーで染まって
いる駅前をデートすることになった。
 まあデートといっても、ウインドウショッピングやゲーセンだったりと、
いつも通りのことをしてるだけなんだけど、花梨は始終嬉しそうに笑っていた。
 俺も、そんなふうに笑う花梨を見ているのは楽しくて、いつしか腕を組んで
いることが気にならなくなっていた。
 これも花梨が起こしたミステリなのかもしれないな。



 夕方も5時を過ぎると、さっきまで茜色だった夕焼けもさっさと夜の色に
染まっていく。
 歩いている人々も早く家に帰りたいからか、どことなくみんな早足になって
いるように思えた。
「それじゃ暗くなってきたし、今日はこれで終わりにしよっか」
 そう言って、花梨がずっと組んでいた俺の腕を解放する。
 この時、ほんの少しだけ後ろ髪引かれる気分になったのは、俺だけかな。
 花梨も、ちょっとだけ名残惜しそうな表情に見えるのは……気のせいかな。
「…………」
「…………」
 俺は花梨の、花梨は俺の顔を見つめ続ける。
 お互い言葉を発することなく。
 少しずつ、距離を縮めて。
 クリスマスイルミネーションのきらめく駅前で、夜色の空の下で、俺は
花梨を抱きしめて。



「お誕生日、おめでとう」



 そっと、くちづけをした。
 ……。
 …………。
 ……………………。
 ほんの一瞬にも満たない時間のキス。
 花梨は突然のことにびっくりしたようで、目をぱちぱちさせている。
 俺は照れくさくてまともに花梨の顔を見られなくて、そっぽを向いて言った。
「ちょっとは……あったかくなっただろ?」
「…………うんっ♪」
 花梨の笑顔で、俺もあったかい気持ちになった。
 少しぐらい寒くても、ふたり一緒なら、花梨と一緒ならこれからも大丈夫。
 そう感じることが出来た、冬空のきれいな12月のはじめの日だった……。

































おわり♪


















あとがき



PS2ゲーム「ToHeart2」のSSです。
もっと無茶な話のほうが花梨らしいでしょうか。
いつも元気な花梨も、こんな一面もあるかなーと。
それでは、また次の作品で。



��005年12月4日 花梨の誕生日から、3日後(えー



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