2006/02/14

(ぷちSS)「チョコレートに想いをのせて」(夜明け前より瑠璃色な)(朝霧麻衣)



業務報告~。
読み物広場に、SS「チョコレートに想いをのせて」を追加しました。
夜明け前より瑠璃色なのヒロイン、朝霧 麻衣ちゃんのバレンタインSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうから
どうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。





チョコレートに想いをのせて(夜明け前より瑠璃色な)(朝霧 麻衣)



「ねえミアちゃん、2月14日はバレンタインデーだって知ってる?」
 2月13日の夜、麻衣とミアが仲良く夕食の後片付けをしていた。
 週に何度かはお隣のトラットリア左門で、鷹見沢家と一緒に食事をして
いるのだが、今日は朝霧家で食事の日だった。
「ばれんたいんでー、ですか。いえ、私は始めて聞きましたけど」
 お皿を洗う手を止めて、ミアが答える。
 ミアは、月から朝霧家にホームステイで来ているフィーナ姫の御付の
メイドで、地球に来てからは朝霧家の家事を主に引き受けている。
「その日はね、女の子から男の人にチョコレートを渡して、愛の告白を
する日なんだよ」
 麻衣は手際よくお皿を洗いながらミアに言う。
「え、えええっ~、お、女の人から告白をするのですか?」
 ミアはいつものように両手を上に挙げて、身体全体で驚きを表現していた。
「ま、麻衣さんは誰かにチョコレートを差し上げたことがあるのですか」
「うん。毎年あげてるよ、お兄ちゃんに」
「たっ、達哉さんにですか??」
��麻衣さんと達哉さんは兄妹のはず。それなのにチョコレートを送ると
いうことは……)
 ミアは自分の想像で顔を真っ赤にしていた。
 それはそうだ。実の兄妹で好き合うなんて、月でも地球でも許されない
はずだ。そんな禁断の愛を、麻衣は平気で口にしているのだから。
 ミアの驚きに気づいたのか、麻衣は楽しそうに笑い出した。
「あ~、ミアちゃんもしかして、わたしがお兄ちゃんのことを好き
なんじゃないかって思ってるでしょ」
「え、あ、や、そ、そんなことは……」
「大丈夫だよ、わたしがお兄ちゃんにあげるのは、義理チョコなんだから」
「『義理チョコ』……って何ですか?」
 はじめての単語に、ミアはちんぷんかんぷんだ。
「えっとね、告白じゃないんだけど、お世話になってる人にあげたり、
お友だちにあげたりするのが義理チョコになるのかな。ちなみに貰って
嬉しいのはもちろん本命チョコなんだけど、義理チョコだって貰えると
貰えないとでは、男の人にとっては大きいんだよ」
「そうなんですか?」
 バレンタインデーに貰えるチョコレートの数で男の価値は決まる!
と思ってる人もいるかもしれないが、実際にはそんなことはない。が、
そう思いたいだけで実は結構気にしているのが男という生き物なのだ……。
「そうなの。お兄ちゃんはあまりそういうことには関心なさそうなんだけど、
貰って嫌な気分にはならないはずだよ」
「……そういうものなの、麻衣?」
「ええ、そういうものです……って、フィーナさん?」
 突然後ろから声をかけられた麻衣が振り向くと、そこにはフィーナが
いつものドレス姿で立っていた。
「姫さま、いつから聞いていらっしゃったのですか?」
 ミアが尋ねると、フィーナはにっこりと笑って答える。
「ミアが大きな声をあげたあたりかしら」
「あ、すみませんです~……」
 しゅん、と小さくなってしまうミア。
「別に怒っているわけではないから気にしなくていいのよ、ミア。
それよりも、そういう風習があるなんて知りませんでした。まだまだ
私たちは知らないことだらけね……」
「あ、別に知らなくちゃいけないことってわけじゃないんですけど」
 ちょっとだけ苦笑を浮かべる麻衣であった。
「そうだわ、ミア。私たちもチョコレートを達哉に送りましょうか。
日ごろお世話になっているのだから、こういう形でお礼をするのも
いいのではないかしら」
「名案です、姫さま」
 こうして、フィーナとミア、それに麻衣の三人は、夜遅くまで
チョコレート作りに勤しむのだった。



 翌日。
 チコの鳴き声で目を覚ました達哉は、部屋を出た途端に階下から
漂ってくる甘い匂いに気が付いた。
「この匂いは、チョコレートか?」
 階段を下りてリビングに向かおうとすると、ちょうど従姉のさやかが
出てきた。
「あら、おはよう達哉くん」
「おはよう、姉さん。今日は早番なの?」
 さやかの格好がぴしっとしていたのを見て、達哉はそう思った。
「えっと、そういうわけじゃないんだけど……」
 少し困ったような表情でキッチンのほうをちらっと見るさやか。
「た、たまには早く行くのも悪くないかと思ったの。あ、そうそう、
達哉くん、はいこれ」
 さやかはカバンからきれいにラッピングされた包みを取り出すと、
達哉に差し出した。
「今日はバレンタインだから、チョコレート。既製品で申し訳ないけど、
いつもありがとうね」
 そう言って、さやかは達哉の頭をそっと撫でてから、そそくさと出かけて
いった。
「……がんばってね(ぼそり)」
 出かけ際の呟きは、達哉の耳には届かなかった。
「そっか、今日はバレンタインデーか」
 さやかから貰った包みを眺めながら、ぼんやりと達哉は思った。この甘い
匂いの原因はそれか、と。



 リビングに入ると、すでにフィーナは席に着いていた。ミアはフィーナの
ためにお茶を入れているところで、麻衣はキッチンで何かをしている最中
だった。
「お、おはようございます、達哉さん」
「お、おはよう、達哉」
 挨拶をしてくれたミアとフィーナの声がいつもと少し違っているように
達哉には感じられた。
「おはよう、二人とも。……なんだかちょっと疲れているようにみえるけど、
何かあったのか?」
 フィーナとミアは顔を見合わせると、達哉の質問には答えず、二人一緒に
これまたきれいにラッピングされた包みを差し出してきた。
「……これは?」
 さすがの達哉も薄々感づいていたが、念のために聞いてみた。
「昨夜、麻衣からバレンタインデーのことを聞いたの。お世話になっている
人にチョコレートを送る日だというから、ミアと一緒に作ってみたの。
……受け取ってもらえるかしら?」
「受け取っていただけますでしょうか?」
 そう言って、フィーナもミアも上目遣いでこっちを見ている。
 いつも凛としているフィーナにしては珍しく緊張しているようで、頬が
少し赤くなっている。
 ミアに至っては、顔を真っ赤にして指先が震えていた。
��これを見て受け取らないやつなんて、いないよな)
「もちろんだよ、ありがとう、フィーナ、ミア」
 達哉は包みを受け取ると、二人に頭を下げてお礼を言った。
 二人は達哉がチョコを受け取ってくれたのを見ると、
「で、では私たちは、左門さんと仁さんにもチョコレートをお渡ししたい
ので、ちょっとでかけて参りますね」
「ええ、行きましょうか、ミア。それでは達哉、私はその後、直接学院に
向かいますから、またあとで」
 フィーナとミアのふたりはそう言うと、慌しくリビングを出て行った。



��なんであんなに急いでるんだろう?)
 達哉がそう思った時、キッチンから麻衣の歌声が聞こえてきた。
「たらりらったらーん♪」
 こ、これはもしや……。
「るんらら~ん♪」
 デスマーチか!?
「っと、できあがり~」
 達哉は危険を察知し、麻衣に気づかれないようにそ~っとリビングから
脱出しようとしたが、
「あ、お兄ちゃん起きてたんだ。おはよう」
 運悪く、見つかってしまい、逃亡を断念せざるを得なくなった。
「お、おはよう麻衣。今日も早いな」
「そうかな? そんなことないと思うけど。それよりも、はい、プレゼント
だよ♪」
 麻衣はにっこりと笑って、やはりきれいにラッピングされた包みを達哉に
手渡した。
「可愛いかわいい麻衣ちゃんから、お兄ちゃんに愛をこめてチョコレートを
作ってみました~」
 ……。
「むー、反応薄いなあ。いつもありがとうね、お兄ちゃん」
 ぺこり、と頭を下げる麻衣を見ていると、あたたかい気持ちが芽生えた
……ような気がした。
「あ、ありがとうな、麻衣。一応聞くけど、これって手作りなんだよな?」
「そうだよ、やっぱり手作りのほうが気持ちがこもってると思うでしょ」
 ま、確かに気持ちはこもってるよな、気持ちは。
「きっと美味しいはずだから、じっくり味わって食べてくれるとうれしいな」
 ……『はず』?
「……砂糖と塩を間違えてなければね(ぼそり)」
「ちょ、麻衣、今なにか言ったか。小さくてよく聞こえなかったんだけど」
「あははー」
「笑ってごまかさないでくれ……」
 5分後、チョコを食べた達哉の叫び声が、さわやかな朝の商店街中に
響き渡った。





















おわり









あとがき



PCゲーム「夜明け前より瑠璃色な」のSSです。
オチはいかにも予想できてしまうのがちょっと問題ありかもですが、
麻衣からチョコを貰えるなら、がんばって食べる自信はありますよ(笑)。
もうひとつのネタとして、菜月のカーボンチョコというのがあるんですが、
これはこれでビターな感じでいいかも(ぇ



それでは、また次の作品で。



��006年2月14日 聖バレンタインデー☆~



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