2006/04/19

(ぷちSS)「アイス? or 麻衣?」(夜明け前より瑠璃色な)(朝霧麻衣)








「アイス? or 麻衣?」(夜明け前より瑠璃色な)(朝霧 麻衣)



 桜の花びらが風に乗って飛ぶようなこの時期にしてはあたたかい日だった。
 俺は妹の麻衣と一緒に家に戻るところだ。
「今日はほんとうにいいお天気だね」
 俺の隣を歩く麻衣は、にこにこと笑っている。
 そんな笑顔を見ているだけで、俺は幸せだった。
「ああ。でも、ちょっと冷たいものが欲しくなってきたなあ」
 そよそよと吹く春色の風は心地良いが、それ以上に元気なお日様のせいで、
少々喉が渇いてきた。
「じゃあ、アイス屋さんに行こうよ!」
 目をきらきら輝かせて麻衣が提案する。
 麻衣はアイスが大好物だ。
 いつだったか冗談で、アイスと俺とどっちが好きか尋ねたことがある。
「えっと……両方!」
 この答えを聞いて、俺はアイスと同列なのだと落ちこんだのも、今となっては
笑い話だ。
 どうしてかというと、俺と麻衣は今もこうして一緒に歩いているのだから。
「そうだな。よし、今日は俺が奢ってやろう」
「え、いいの?」
「もちろん」
「やった☆」
 ちょうどバイト代も入ったばかりだし、たまにはいいだろう。
「食べたいのいっぱいあるんだよね~。ピーチ味でしょ、シュークリーム味
でしょ、ぱにーに味にカーボン味。緑茶味もいいかも……」
 なんだかすごく気になる単語もあるが、聞き流すことにしよ…。
 アイスを考える麻衣の顔を眺めていたら、いつのまにかアイス屋に着いて
いた。



「うわあ、すっごくおいしいよ~」
 俺と麻衣は、それぞれにアイスを買って、ベンチに座って食べていた。
 とろけそうな表情でアイスを味わっている麻衣。こんな麻衣が見られるなら、
 1000円札2枚なんて安いもんだ。
 アイスに夢中な麻衣を見ていると、ふと視界の隅に特徴のある黒い帽子が
映った。
「リース?」
 俺の呟きが聞こえたのだろう、ちらりとこっちを見ると、とことこと
近づいてきた。
「……」
 リースは、じーっと俺を、いや俺が手に持っているアイスを見つめている。
 食べたいんだろうか。
「……食べる?」
 そう言ってアイスを差し出してみると、リースは可愛らしい舌を出して
ほんのちょっとだけアイスを舐めた。
「……つめたい」
「つめたくておいしいだろ?」
「……普通」
 いつものように素っ気無い感じで、リースは俺の頬を指差した。
「達哉、アイスついてる」
 そう言うと、リースは俺のほっぺたをぺろっと舐めた。
「うわっ?」
「とれた」
 リースはちょっと満足げな表情で頷くと、来た時と同じようにとことこと
歩いていった。
 ……。
「じー」
 はっ?!
「じーっ」
 麻衣の視線が激しく俺に突き刺さっていた。
「いや、あの、これはだな……」
 おろおろと弁解をしようとすると、
「わ、わたしだって……お兄ちゃんになら、舐められてもいいよ……」
 そう言うと麻衣は、自分のほっぺたにアイスを押し付けると、そっと目を閉じた。
 いつか聞いた麻衣の答えを、俺はぼんやりと思い出していた。









おわり



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