2006/04/14

(ぷちSS)「Secret of Mai heart」(夜明け前より瑠璃色な)(朝霧麻衣)



業務報告~。
読み物広場に、SS「Secret of Mai heart」を追加しました。
「夜明け前より瑠璃色な」のヒロイン、朝霧 麻衣のSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうから
どうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。





「Secret of Mai heart」(夜明け前より瑠璃色な)(朝霧 麻衣)



7月12日(水)



「うん、分かった」
 洗面所で鏡の前に立ち、先ほどの言葉を思い出す。
 お兄ちゃんに子ども扱いされるのがイヤで、とっさにそう返事
しちゃった。
 ほんとは、わかってない。……わかりたくなかった。



 今日は左門のバイトが休みなので、いつものようにお兄ちゃんと
一緒にフルートの練習をするために川原に来ていた。
 お兄ちゃんは寝転がって、わたしの演奏を聴いていてくれる。
 だからわたしは安心してフルートの練習ができるんだ。
 でも、今日は残念ながら邪魔が入ってしまった。
 雨だ。
 突然降りだした雨はまるでスコールのようで、わたしはあわてて
フルートをしまうと、お兄ちゃんに遅れないように家に向かって
ダッシュした。
 なんとか無事に家まで辿り着いたものの、フルートをかばうように
走ってきたので、わたしたちはお互い雨でびっしょりだった。
 そんな格好がなんだかおかしくて、ちょっとはしゃいだら
お兄ちゃんに言われたんだ。
「麻衣は、すぐ子どもみたいにはしゃぐ」って。
 お兄ちゃんに子ども扱いされるのがイヤだった。
 だからわたしは、物分りのいい妹みたいに、優等生の返事をしたんだ。
 はあ~、これからはフルートの練習は学院でするしかないのかなあ。



 最近、お兄ちゃんと一緒にいる時間がちょっと多いような気がする。
 学院の友だちからは、仲の良い兄妹だねってよく冷やかされるけど、
それは本当のわたしたちのことを知らないから。
 本当の兄妹じゃないってことは、わたしとお兄ちゃんだけの秘密だ。
 最初は意識して、「本当の兄妹」であるように振舞っていたけど、
すぐにそんな必要はなくなって。
 わたしたちはどこから見ても「兄妹」そのものになっていた。
 「お兄ちゃん」って呼び方も、今ではすっかり馴染んでいる。
 けど、ずっとこのままなのかなって思うと、少しだけ胸が痛んだりする。
 お兄ちゃんはどう思ってるんだろう。
 湯船につかりながら、わたしは答えの出ない問いを延々と考えていた。



7月16日(日)



 今日は朝からとってもいいお天気で清々しかった。
 こんな日は、気分良くフルートの練習ができそうだ。
 いつもならお兄ちゃんと一緒に川原に行くんだけど、この間言われた
ことがわたしの中で渦をまいているようにぐるぐると回っている。
「自立、しないといけないよね」
 朝食を済ませると、わたしは学院に向かった。
 ひとりで、フルートの練習をするために。



 一通り練習を終えて帰ろうとしたら、校門を出たところでお兄ちゃんと
ばったり出会った。
 どうして、日曜なのに学院にいるんだろう。
 聞いてみると、なんだか慌てた様子で、傘を届けに来たと言った。
 こんなにいいお天気なのにと思ったけど、わたしのことを心配して
来てくれたんだと思うと、やっぱり嬉しかった。



 その後、突然お兄ちゃんにデートに誘われたので、お昼ご飯を食べた
後に商店街にやってきた。
 もちろんお兄ちゃんと一緒だ。
 新しくオープンしたアイスクリーム屋さんには行ってみたいと思って
いたから、すごく楽しみ。
 お兄ちゃんと一緒だってことも、嬉しかった。
 しかも、なんとお兄ちゃんがおごってくれるって言うから、さらに
嬉しい。
 と思っていたんだけど、いざ会計の時になって、お兄ちゃんが言った
言葉に、わたしもお店の人も一瞬凍りついた。
 だって、お財布忘れてきたって言うんだもん。
 まったく、しかたないお兄ちゃんだ。
 結局、わたしがアイスの代金を払って、お兄ちゃんと逃げるように
お店を後にした。
 アイスはとっても美味しかった。う~ん、バニラが美味しいお店は
いいお店♪
 お兄ちゃんは、お財布を忘れたことを気にしてるみたいだったけど、
わたしはそんなことはどうでもよかった。
 お兄ちゃんとお出かけできて、アイスが食べられただけでとっても
幸せだったのだ。
 それでも、せっかくお兄ちゃんに貸しがひとつ出来たので、試しに
お願いを言ってみた。
「また、前みたいにフルートの練習に付き合って欲しい」って。
 そしたら、お兄ちゃんはぶっきらぼうだけど、うんと言ってくれた。
 たった一言、そっけない一言だったけど、わたしはすごくすごく
ほっとした。



 心のつかえがとれたせいか、家に帰ったわたしは、フィーナさんに
お風呂に一緒に入ろうと誘ってみた。
 なんだかお兄ちゃんがうらやましそうにしてたけど、こればっかりは
一緒に入るわけにもいかないし。
 フィーナさんも快く応じてくれたので、仲良くお風呂に入ることにした。
 しかし、入った後にちょっとだけ後悔した。
 だって、だってフィーナさんのスタイルがすっごく素敵なんだもん!
 さすがは月のスフィア王国のお姫さま。何から何まで完璧だよ……。
 やっぱりお兄ちゃんも、フィーナさんのようにスタイルの良い女の人の
ほうがいいのかな。
「どうしたの、麻衣」
 フィーナさんの声に、わたしはフィーナさんの身体をじーっとみつめて
いたことに気が付いた。
「私の身体、どこか変かしら……」
「そ、そんなことないですっ。とってもきれいですよ!」
 少し顔を赤くして呟くフィーナさんに、フォローを入れるわたし。
 女性らしいふくよかな丸みを帯びた胸はとてもやわらかそうで、女の
わたしでも触ってみたいと思えるほどだ。
 って、それはちょっとマズくない、わたし?
 『バストタッチ戦争』なんてことになったら、大変だし。
 お兄ちゃんの『風呂覗き戦争』と比べたら、どっちの可能性が高いの
だろうか……。
「麻衣?」
「わきゃっ!?」
 またもやぼーっとしていたわたしは、眼前にまで迫っていた
フィーナさんに気が付かず、変な声をだしてしまった。
「大丈夫? 何やら顔が火照っているように見えるけれど」
 ううっ、フィーナさんに見とれてたなんて、恥ずかしくて絶対に
言えないよぉ……。



「そうだったの」
 湯船に一緒に入っているわたしとフィーナさん。
 あの後、なんとかごまかしはしたものの、フィーナさんに心配をかける
わけにもいかないので、わたしは自分の悩みをこっそり打ち明けることにした。
「フィーナさんと比べたらわたしなんて……」
 自分の胸を両手でそっと包んでみる。手の中にすっぽりと包まれた胸は、
決して小さくはないと思うけど、幼馴染の菜月ちゃんや従姉のさやか
お姉ちゃん、それから目の前のとっても素敵なフィーナさんを見てしまうと、
どうしても見劣りしちゃう。
「そんなことを言うものではないわ」
 フィーナさんはやさしく微笑んでいた。
「女性の価値はスタイルの良さだけで決まるものではないわ。それは
あくまでもひとつの指標でしかないの。もっともっとたくさんの要因があって、
誰でも他の人よりも優れているところがあるのだと私は思うの」
 それに、とフィーナさんはわたしをみつめて言った。
「麻衣の肌はとっても白くて、腕や足もすごく細いもの。私、ちょっとばかり
嫉妬しているのかもしれないわ」
「え、ええっ?」
 「ぼんっ」と音がするほど真っ赤になるのは菜月ちゃんの専売特許だと
思っていたけど、今のわたしはまさにそんな感じで真っ赤になっていた。
 まさかフィーナさんにそんなことを言われるなんて思ってもいなかったから。
 どきどき、どきどき。
 隣にいるフィーナさんに聞こえるんじゃないかと思うくらい、鼓動が
早鐘のように響いている。
「達哉も幸せね」
「ど、どどどうしてお兄ちゃんのことがむぎゅ」
 パニックに陥るわたしの口を、フィーナさんがあわてて押さえた。
「しーっ、静かに」
 こくこく、と頷くわたし。
「見ていればわかるわ。だって私は」
 フィーナさんは湯船から出て、こちらを振り向く。
 その姿は、陳腐な比喩だけど、神々しいまでに美しかった。
「フィーナ・ファム・アーシュライトなのだから」
 ……フィーナさん、それ、答えになってないです。
 と思ったけど、なぜか不思議な説得力のある言葉だった。
「……負けないわよ」
 フィーナさんはそう呟くと、わたしを残してさっさとお風呂場から出て
行った。
 もしかしてフィーナさんもお兄ちゃんのことを……。
 …………。
「勝ち目、あるかなあ」
 自分の胸を両手でそっと包んで、麻衣はひとり、湯船に沈み込むのだった。







































おわり









あとがき



PCゲーム「夜明け前より瑠璃色な」のSSです。
あ、あれ?
当初は麻衣ルートのエピソードを麻衣視点で書いてみたい、と思ったことから
生まれたSSだったはずなのですが。
なんか途中からおかしな展開になっていきました。
なんだろう、これがお風呂の魔力というやつでしょうか。
隠すものがなくなると、普段は気が付かない気持ちが出てしまうというか。
まあ、そんな感じで。
SSなので挿絵がないのが非常に悔やまれるシチュエーションですが、それは
読んで頂いた方の想像力にお任せします(わはー



それでは、また次の作品で。



��006年4月14日 サイト4周年おめでとう♪ の日~(自分で言う)



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