2006/06/06

(ぷちSS)ありえない(夜明け前より瑠璃色な)



やまぐうさんの書かれた「ありえない文章」で閃きました。
こんなのばっかし思いつくんよ……。





「ごちそうさまでした」
 みんなの声が唱和して、いつもの左門での夕食が終わる。
「ねえ、達哉。ちょっといいかな」
「うん?」
「ちょっと試してもらいたいものがあるんだけど」
 試食か。
 いつものことなので、頷く。菜月は嬉しそうに微笑むと、
バックヤードに歩いていった。
「今日は何だろうね、菜月ちゃんの料理」
 目の前に座っている麻衣が、にやにやとしている。
 俺としては、自分のために一生懸命作ってくれる菜月の料理を
残さないで食べているだけなのだが、麻衣はそれが楽しくて
仕方ないらしい。
「あっ、今日は料理じゃないの」
 バックヤードから菜月の声がする。
「偶然手に入った食材があったから、ジュースを作ってみたん
だけど……あれ?」
 訝しげな菜月の声。
「どうした、菜月」
「……ない」
「だから、何がないんだ」
「私が作ったアロエジュースがなくなってるの」
「なんで?」



「わからない……アロエがないなんて、ありえないよ~」



 ぶはーっ
「うわあっ」
 ちょうどお茶を飲んでいた麻衣が、盛大に口の中のものを
ぶちまけた。……俺に。
「げほっ……ごほっ、ご、ごめんなさい、お兄ちゃん……」
 謝りつつもお腹を押さえて笑いをこらえる麻衣。
 どうやらツボに入ったらしい。
 いや、入ったのは気管支のほうか。
「やれやれ、麻衣ちゃん。レディとしてそれはちょっと恥ずかしく
ないかい?」
 そう言って、仁さんは優雅にグラスを傾けた。
「仁さん、それは?」
「ん、アロエジュースだけど」



 ごすっ



「ぎゃふん」
 すごい音がして、仁さんがテーブルに突っ伏した。
 仁さんの後頭部には、どこからともなく飛来した巨大しゃもじが
刺さっていた。
 ……ありえない。



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