2006/07/07

(ぷちSS)「七夕の願い事」(夜明け前より瑠璃色な)



「それは達哉が悪いよ」
 きっぱりと菜月に言われてしまった。
 いつものように左門でバイトに勤しんでいたつもりだったが、
菜月には俺の動きがほんの少しおかしく感じたらしい。
 さすがに幼馴染だからな。
 幼馴染ゆえに、菜月の追及を簡単にかわせないことを知っている俺は、
今朝の『棚牡丹』事件のことを簡単に話したのだった。



「どうして俺が悪いんだよ」
 壁際に立ち、お客さんの様子をチェックしながら、菜月とひそひそ声で
話す。
「俺が麻衣を笑わせようとしたわけじゃないのに」
「そんなことわかってるわよ。もちろんフィーナだってわざとじゃないし、
ミアだって悪気はなかったと思う」
「じゃあ、なんで俺なんだ」
「達哉、麻衣のフォローをしてあげたの?」
 え?
「目の前で麻衣が苦しんでるのに、達哉は何もしなかったんでしょ。
だったら、麻衣が怒るのも無理ないと思う」
 そう言うと、菜月はお客さんが帰っていったテーブルの後片付けを
はじめた。
 後に残された俺は、今朝の自分の行動を振り返ってみた。
 ……確かに、俺は見ていただけだな。
 菜月に教えられるまで気が付かないなんて、俺もまだまだだ。
「そんな達哉君に、良い事を教えてあげよう」
 いきなり俺の隣に仁さんが湧いて出た。
「さり気なくひどいことを考えてやしないかい?」
「いや、そんなことは」
「まあいい、麻衣嬢の好物はアイスクリームだ」
「そうですね……いやというほど知ってますが」
「では、後は実行あるのみだね」
 そう言って、仁さんはお客さんの会計をするためにレジに入った。
 ……。
 それはあまりにもベタじゃないだろうか、と思ったが、貴重なアドバイスを
くれた菜月と仁さんに心の中で感謝しつつ、俺もバイトに精を出した。



 バイトを終えた俺は、家に帰る前にひとっ走り商店街まで行き、お店の
人に事情を説明して店を開けてもらい、なんとか目当てのものを手に入れる
ことができた。
「ただいま」
「あ……お帰りなさい、お兄ちゃん」
 玄関に入ると、ちょうど目の前に麻衣がいた。わずかにぎこちない感じだ。
 やはり、今朝のことを根に持っているのだろうか。
「遅かったじゃない、どこに行ってたのよ?」
「ちょっとな。はい、おみやげ」
 そう言って、俺は麻衣に買ってきたものを手渡した。
「『笹の葉アイス』だってさ、今日限定らしい」
 こんなものが売られているとは知らなかったが、七夕にはうってつけだ。
「それと、これも」
「……短冊?」
「願い事を書いて笹に吊るすんだよ。フィーナたちに教えてあげなくちゃな」



 リビングに置いた笹に、みんなで願い事を書いた短冊を吊るした。
 フィーナは「月と地球の友好」、ミアは「おいしいジャムが作れるように」、
さやか姉さんは「家族の幸せ」とそれぞれの想いが短冊に綴られている。
「お兄ちゃんは、なんて書いたの」
 俺は、自分の短冊を麻衣に見せてやった。



『麻衣と仲直りできますように』



「……しょうがないなあ、お兄ちゃんは」
 と言って、麻衣はにっこり笑った。
「アイスも買ってきてくれたし、許してあげましょう♪」
 差し出してきた麻衣の短冊を見て、俺たちは笑いあった。
 それには、こう書かれていた。



『お兄ちゃんと仲直りできますように』









おわり






おおっ、意外にきれいにまとまりましたよ(わは
昨日のSSの続きなので、よければそちらも合わせて読んでください。
さて、作中に『笹の葉アイス』って出てきますが、適当に作ってみた名前
なんですが、どうやら実在する模様です。
横浜の中華街にあるらしい(?)ので、お近くの方は話のタネに食べて
みてください。そして感想を教えていただけたら、と思います。



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