2006/07/25

(ぷちSS)「雨よりもレインボー」(夜明け前より瑠璃色な)



 連日降り続ける雨もようやく落ち着きを見せ始めたが、まだまだ
洗濯物が気持ちよく干せるようになるのは先のこと。
 リビングの窓から外を見ると、今日も激しく夕立が降っていた。
「……」
 なんとなくアンニュイな気分で、フィーナと一緒にソファに腰掛けて
いるものの、ふたりともぼんやりと空を見上げながら、ミアが入れて
くれたお茶を飲んでいた。
「……」
 この沈黙をどうしようかと考えていると、キッチンから出てきたミアが
こう言った。
「姫さま、達哉さん。お買い物し忘れていたものがありますので、ちょっと
出かけて参ります」
 エプロンを外しかけたミアに、フィーナが
「では、私が行くわ」
 と言った。
 ミアは、姫さまにそんなことをしていただくわけには、とひたすら恐縮
していたが、今は月の王宮ではなく地球の朝霧家にいること、買い物も
良い経験だわ、というフィーナの言い分に押し切られてしまった。
 まあ、俺がフィーナについていくと言った事がミアを納得させる要因の
ひとつでもあるのだけれど。



 ふたりともそれぞれ傘をさし、商店街までの道のりを歩く。
「ねえ達哉」
「なに、フィーナ」
「雨とは不思議なものね。ただの自然現象にすぎないのに、なんとなく
気持ちが滅入ってしまうもの」
「月人にとっては、珍しいんだ?」
「それはそうよ。ほんの少しの水でも、とても高価なものなのだから」
 こんなに雨が降り続けるなら、少しは月に持って帰りたいものだわ、と
フィーナは微笑みながら呟いた。
「でも、雨だっていやなことばかりじゃないさ」
「そうなの?」
「ああ」



 商店街でフィーナと一緒に買い物しているところをみんなに冷やかされ
ながらやっと買い物を終えると、あんなに激しく降っていた雨がやんでいた。
「達哉、見て。雨がやんでいるわ」
「そうだな」
 フィーナの声がわずかにはずんでいるのがわかる。
「雨とは不思議なものね。ただの自然現象にすぎないのに、降っている時は
気持ちが滅入り、やんでしまえばそれだけでうれしいものなのだから」
「そうだな。それに……ほら、あれを見てごらんフィーナ」
 俺の指差す方角を見つめるフィーナ。
「まあ……」
 深い緑色の目を大きく見開いて、フィーナはそれを見つめていた。
「虹、って言うんだ。夕立の後なんかに見られることが多いんだよ」
「とっても素敵なものね。ミアにも見せてあげたいわ」
「そうだな。ほら、雨だっていやなことばかりじゃないだろう」
「そうね、達哉の言うとおりだわ」
 そう言ったフィーナの瞳には、七色の虹が映り込んでいた。



おわり



あとがき



ああ、今書いてる麻衣SSがあるのに、なんで別のを書いているんだ。
でも、気分よく書けたからいいかな(わはー



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