2006/07/06

(ぷちSS)(夜明け前より瑠璃色な)



「フィーナは、七夕って知ってるか?」
 七月にしては涼しく、未だ梅雨明けも宣言されていない朝の食卓。
 俺、朝霧達哉は月の姫が地球における風習をどれぐらい知っているか
どうか尋ねてみた。
「たなばた? えっと、聞いた事があるわ。確か……棚からおもちが
落ちてくること、だったかしら」
「ぅぐっ……、けほっけほっ!」
 麻衣は、口に入れたばかりの目玉焼きをむせ返りながらも一生懸命
飲み込もうとしている。
 きっと、いつぞやの失態を繰り返すまいとしているのだろう。
「きっと、その棚は傾いているのですね」
 ミアの素直な一言が、麻衣の苦しみを倍化させた。
 さすがは月人。フィーナのお付きのミアも、詳しくはないようだ。
「違いますよ、ふたりとも」
 さやか姉さんが、麻衣の背中をさすりながら言う。
「フィーナ様が言っているのは、棚牡丹(たなぼた)のことですね。
棚牡丹とは、『棚から牡丹餅』ということわざを縮めた言い方です。
意味は、思いも掛けない幸運がやってくる、という意味です」
 博物館の館長代理を務めている従姉のさやか姉さんは、にこにこ
しながら答えた。
「だからね、ミアちゃん、本当に棚が傾いているわけではないの」
「そうなんですか~」
「なるほど、勉強になったわ。ありがとう、さやか」
 月からホームステイで朝霧家に来ているふたりは、こうして、また
ひとつ地球のことを覚えるのだった。
「めでたしめでたし」
「……めでたくないっ、お兄ちゃんのばかー!」
 大惨事を必死に乗り越えた麻衣の言葉が、俺の鼓膜に突き刺さった。



明日につづく、かも



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