2006/08/24

「サマー・ホリデー・ホームワーク」(夜明け前より瑠璃色な)(朝霧 麻衣)






 夏休みの終わりも残すところあと一週間になった。
 そんなこととは無関係に、セミは庭の木で昼夜を問わず鳴き続け、
イタリアンズは暑さでぐったりとし、麻衣はにこにこと元気だった。
「たらりらったら~ん♪」
 朝からデスマーチを歌い放題だが、この暑さなら仕方ないのかも
しれない。麻衣の歌をBGMに、俺はクーラーの効いたリビングで夏休みの
宿題を片付けているのだった。
「どう、調子は?」
 はい、と麦茶を差し出す麻衣。俺は受け取ったそれを半分ほど一気に
飲み干して、溜息をついた。
「まずまずといったところかな。前半さぼっていたから、追いつくのが
大変だ」
 今年の夏はフィーナたちがいるから、とついつい遊びすぎてしまった。
 さやか姉さんはともかく、フィーナも溜めてしまった仕事を片付ける
ために、ここ数日は月王国大使館に朝から晩まで篭っている。姫付きの
ミアも一緒だ。
 というわけで、今この家には俺と麻衣のふたりだけ。姉さんは本当なら
たまの休みを満喫しているはずだったのだが、なにやら博物館のほうで
問題があったようで、朝から出かけていった。
「しょうがないなあ、お兄ちゃんは」
 と言って、麻衣はうちわでぱたぱたと扇いでくれた。
 ふう……気持ちいい。
「麻衣は、宿題終わったのか」
「だいたいね。わたしは毎日ちゃんとやってたもん」
 えへん、と薄めの胸を張る麻衣。
 夏休み中の部活も休まずこなし、家事もミアの次ぐらいに一生懸命
やってくれている麻衣。忙しさでいうならみんなと同じくらいのはずだが、
さすがは我が妹と言うべきか。えらいもんだ。
「えらいぞ麻衣」
「ちょっ、お兄ちゃん……」
 よしよしと頭をなでると、麻衣は顔を真っ赤にして、でも少しだけ
嬉しそうに笑った。
 しばらく麻衣の頭を撫でていたら疲れも取れてきたので、俺は宿題を
再開することにした。
「じゃあ、わたしも料理に戻るね」
 と言って麻衣が入っていったキッチンからは、しばらくしたら
「るんらら~ん」
 と言う歌が聞こえてきた。
 麻衣、がんばるのはいいがデスマーチはどうかと思うぞ。
 俺は心の中で呟きながら、宿題のテキストを埋めていった。



 昼食は麻衣が作ってくれた「ピリ辛そうめん」だった。
 夏は辛いもの食べていっぱい汗を出そう、というのが麻衣の言い分。
 どうやって作ったのかはわからないが、唐辛子らしきものが練りこまれた
麺はきれいな赤で、とてもおいしかった。時折存在する猛烈に辛い麺を
除けば、だが。フィーナたちがいなくてよかったと思った。
 食後のお茶を飲んでいると、麻衣が「あっ」と呟いた。
「どうかしたのか、麻衣」
「宿題、ひとつだけ残してたの忘れてた」
「どんな宿題なんだ?」
「それはね……」



 風が草をかきわける。空には太陽と白い雲。青い空はどこまでも青く、
そして、月が美しく輝いている。
 ここは「物見の丘公園」。頂上には謎のモニュメントが建っている、
満弦ヶ崎でも珍しいスポットだ。その割には利用者が少なく、俺と
イタリアンズにとっては格好の散歩コースだ。ただし、今日はイタリアンズ
ではなくて。
「う~ん、気持ちいい~」
 吹き抜ける風を全身に浴びながら、麻衣が大きく身体を伸ばしている。
 麻衣が忘れていた宿題。それは、「お兄ちゃんとお散歩♪」だった。
 ま、こればっかりはひとりではできないからな。
「これで宿題は全部終わったよ。ありがとう、お兄ちゃん」
「じゃあ、俺の宿題も手伝ってくれないか?」
「え?」
「俺の宿題には、『麻衣と一緒にアイスを食べる』ってのがあるからな」
「しょうがないなあ、お兄ちゃんは」
 あははっと笑うと、麻衣は俺の手をそっと握った。



おわり



あとがき



うーん、もう少し何かほしいところですが、突発SSは難しいですね。
今回のタイトルは直訳すると「夏休みの宿題」なんですが、落ち着いて
考えたら「夏休み=サマーバケーション」のほうがいいのかしら。
書いてる時もなんかおかしいなあと思ってて、書き終わってから調べて
気がつきました、サマーバケーションに。
でも、今のタイトルのほうが韻を踏んでていいような気がするので、
そのままにしました。



それでは、また次の作品で。



��006年8月24日 朝霧玲一さんのお誕生日♪



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