2006/08/03

「Honey & Sweet」(夜明け前より瑠璃色な)(朝霧 麻衣)



 空を見上げれば真っ白な雲にあざやかな青。そして、真昼の月がきれいに
ぽっかりと浮かんでいた。
「どうしたの、お兄ちゃん」
 風になびく白いリボンを押さえながら、俺を見下ろす影がひとつ。
 逆光で表情は見えないけど、それが誰なのかわからないわけがない。
 だって麻衣は、俺の大切な妹なんだから。
「きれいだなって思ってさ」
 俺がそう言うと、麻衣は顔を赤くした。逆光でもわかるぐらいに。
「も、もうお兄ちゃんったら冗談ばっかり」
「冗談なんて言ってないさ。きれいな青空だよな」
「お兄ちゃんの……」
 寄せては返す波の音のせいで、麻衣のセリフの後半は俺の耳には
届かなかった。



 今日は8月3日。麻衣の誕生日だ。
 せっかくだから家族みんなで出かけようと思っていたんだが、フィーナは
公務、ミアはそのお供。さやか姉さんは博物館の仕事で大忙し。
 というわけで、俺が麻衣の相手をひとりで引き受けることになったのだ。
 今年の梅雨は例年よりも長引いて、つい最近ようやく明けたのだが、
その反動だろうか。連日ものすごい快晴で、イタリアンズもぐったりしている。
 今日ももちろんいいお天気で、ミアは洗濯物が良く乾くと上機嫌だったが、
俺たちにとってはこの暑さはかなり辛い。
 そんなわけで、俺たちは電車を乗り継いで海へとやってきたのだった。



「よし、それじゃあちょっと海に入ってみるか」
 そう言って麻衣を誘ったのだが、麻衣は動かない。なんだかもじもじ
しているんだが、なんだろう。
 麻衣は水着には着替えているものの、上には白いTシャツを着ている。
「どうかしたのか、麻衣」
「えっ! な、なにお兄ちゃん」
 ……。ばしゃっ。
「きゃあっ」
 突然の水に驚いた麻衣は、可愛い声をあげた。
「お兄ちゃん、ひどいっ」
 ばしゃっ、ばしゃっ。
「おっ、やる気だな」
「まけないよ~」
 先ほどまでの雰囲気はどこへやら、麻衣は元気良く俺に水をかけてくる。
 俺も負けじとかけ返す。数分も経たないうちに、ふたりはびしょ濡れに
なっていた。
「ほら、そろそろそのTシャツは脱いだ方がいいんじゃないか」
 ばしゃっ。
「だ、だって恥ずかしいんだもん」
 ばしゃばしゃ。
「よいではないかよいではないか」
 ばしゃっ、ばしゃっ。
「お兄ちゃんの、えっちー」
 ばしゃあっ。
「うわ、口に入ったっ。げほげほっ」
「あはははは」
 麻衣の笑い声が、ぬけるような青空にすいこまれていった。



 しばらくそうやって遊んだ俺たちは、太陽が真上になった頃に休憩する
ことにした。
「麻衣は何にする?」
「わたしはアイス。お兄ちゃんもアイス」
「俺もかよ……」
 俺が反論する前に麻衣は注文を終えていた。ま、今日は麻衣の誕生日
だから仕方ないか。
「おいしい~」
 幸せそうにアイスを頬張る麻衣。この笑顔がアイスひとつで見られるん
だから、アイスも悪くない。
「これ、はちみつアイスっていうんだって。お兄ちゃんも食べてみる?」
 差し出されたアイスをひと口食べてみると、想像していたよりも上品な
味だった。
「ふうん、はちみつっていうからもっとべったりした味だと思ったけど、
結構おいしいな」
「でしょでしょ。アイス大臣の目に間違いはないんだから」
 麻衣は瞬く間に自分のアイスを食べきってしまった。
 早すぎる。
 そして、麻衣の視線は俺に注がれる。正確には、俺のアイスに注がれて
いる。
「お兄ちゃんの……食べたい」
 妹よ、牛乳飲んでたら吹き出しそうなセリフを言わないように。
 俺はアイスを麻衣の口に近づけて、こう言ってやった。
「ほら、あーん」
「あーん、ぱくっ」
 妹よ、恥ずかしげもなく食べないでくれ……。
 まわりの人たちからは、あたたかい視線が俺たち兄妹に注がれていた。
 ……しかし、俺たちって兄妹に見えてるんだよな?



 帰りの電車の中で、麻衣が俺の肩に身体をあずけて俺にだけ聞こえる
ような声で囁いた。
「今日はありがとう、お兄ちゃん」
 俺も囁き声で返す。
「可愛い妹のためだからな」
「……妹」
「訂正。可愛い麻衣のためだからな」
「お兄ちゃん、………」
 麻衣のセリフの後半は、電車のがたんごとんという音に遮られて聞き取れ
なかった。
 だが、俺は気にならなかった。
 なぜなら、しばらくすると可愛らしい寝息と共に満足そうな表情をした
麻衣が俺の隣にいたのだから。












おわり



あとがき



よし、無事に完成しました。所要時間90分(笑)。
タイトルの「Honey & Sweet」に深い意味はなく、
「8月3日→はちがつみっか→はちみつ→Honey」という流れです。
わかりやすいですね。
ちなみに、まめちしきー。
��月3日は「はちみつの日」だそうです。
そして、今回の「はちみつアイス」も実在します。



それでは、また次の作品で。



��006年8月3日 朝霧麻衣ちゃんのお誕生日♪



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