2007/01/31

「It’s a wonderful world」(夜明け前より瑠璃色な)(エステル・フリージア)



業務報告~。
読み物広場に、SS「It’s a wonderful world」を追加しました。
「夜明け前より瑠璃色な」のヒロイン、エステル・フリージアのSSです。
プレイされていない方にとっては、軽いネタバレもありますので、
ちょっとだけご注意ください。

上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうから
どうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。





「It’s a wonderful world」(夜明け前より瑠璃色な)(エステル・フリージア)



 礼拝堂の扉を開けて外に出ると、夜だというのに意外に明るかった。
 夜空を見上げると、まあるい月が浮かんでいる。
「いつか、必ず……」
 誰にも打ち明けられない想いを、誰にも聞こえないような声で、
エステルは呟いた。



「どうして私が貴方と出かけなければならないのですか?」
 そうは言ってみたものの、モーリッツ様の指示である以上、断れない。
 目の前の地球人、アサギリタツヤは、いつものように不愉快な笑顔を
浮かべると、歩き出した。
 モーリッツ様に買い物を頼まれる。それだけならいつものことだが、
今日は少し違っていた。
 月人居住区では手に入らない品物のようで、駅前まで出向く必要が
あったのだ。
 その時、たまたま礼拝堂にやってきたあの地球人が、同行を申し出た。
 モーリッツ様は、エステルをよろしくお願いしますと、了承してしまった。
「行きますよ、エステルさん」
「……」
「エステルさん?」
 ああ、もうっ。聞こえているのに。
「行きましょう」
 そう言ってから、私はすたすたと歩き出した。彼はあわてた様子で
私の隣に並ぶと、歩調を合わせてついてくる。
 まったく、どうして私が地球人と……。
 彼個人に関しては特に何の感情も抱いていないはずなのに、彼に冷たく
当たってしまうのは自分でも理由はわかっていなかった。



 弓張川に出た。先日降った雨のせいだろう、普段よりも川の水量が
増している。
 ふと、横を見ると、エステルさんは少し驚いたような表情をしている。
「どうかしたんですか」
「いっ、いえ、この前よりも水の量が多いようですから」
 エステルさんにとっては、こんなに大きな川を見るのははじめてなのだろう。
 フィーナもそうだったが、月人は地球の自然に対しては驚くことが
多いように思う。
 俺も月に行ったら、月の自然について驚くことが多いのだろうか。
 そんなことを思いながら、駅前に向かって歩いていった。
 エステルさんの視線は、まぶしく太陽の光を映す川面にそそがれていた。



 彼の助けもあり(非常に不本意なことだが)、私はモーリッツ様に
頼まれた品物を無事に購入することが出来た。
「よかったですね」
「……はい」
 なぜ、私は素直に礼を言うことが出来ないのだろう。
 ありがたいという気持ちは確かにあるのに、御礼を口にすることが
できない。
 私の口から出たのは、
「これでひとつ借りができましたね。借りたままでいるのもあまり
気分のよいものではありませんので、何かひとつだけ、貴方の言うことを
きいてあげます」
 そんな、子どものようなひねくれた言葉だった。



 貴方の言うことをきいてあげます、って言われてもな。
 ヘンなことを言ったらどうなるのか、簡単に予想できるんだけど。
『俺と仲良くしてください』
『どうして私が貴方と仲良くしなければいけないんですか』
 ……こうくるだろ。
『俺の家に遊びに来ませんか』
『どうして私が貴方の家に遊びに行かなければならないんですか』
 ……こうくるよな。
『俺とつきあってください』
『どうして私が貴方と付き合わなければならないんですか』
 ……うーん、だんだん不毛になってきた。
「10、9、8、……」
 って、いつの間にかカウントダウンしてるしっ!
 あわてた俺は口にしたのは、とあるお店の名前だった。



 こっ、これは……。
「わん」
「きゃん」
「くぅ~ん」
 まさにわんわんワールド。
 あちらを見ても、こちらを見ても、どこを見ても可愛らしい
愛くるしい犬たちでいっぱい。
 このような場所があるなんて、地球も少しはいいところがあるのですね♪
 ふと、視線を感じたので、そちらのほうを見ると、朝霧さんが
にやにやと笑っていた。
「べっ、べつにうれしくないなんて思っていませんからっ」
 自分でも、何を言っているのか、よくわからなかった。



 どうやらエステルさん、喜んでくれているみたいだな。
 俺が見ているうちはがまんしていたようだけど、少しトイレに
行って来ると姿を隠した途端、たがが外れたようだ。
「う~ん、お前たちはほんとうにかわいいですね。毛並みもつややかで、
やわらかくて、すごく気持ちいいわ」
「くぅ~ん」
「ほらほら、なでなでしてあげますよ~」
「きゅぅ~」
「こっちのほうがいいかしら? きゃっ、もう、勝手になめるのは
ダメですよ。あんっ、くすぐったいわ」
 ……、おいおい。
「こぉら、だめって……ちょっと、そこは……あぁん♪」
 あの、エステルさん?
 さすがにがまんができなくなった俺が柱の影から出てくると、
二匹の子犬に手のひらをなめられて喜んでいるエステルさんの姿があった。
「べっ、べつにうれしくないなんてこれっぽっちも思っていませんからっ!」
 言葉の意味はよくわからないが、エステルさんが楽しんでいること
だけはわかった。



 その日の夜。
 礼拝堂の扉を開けて外に出ると、夜空に月が浮かんでいた。
 月の光をあびながら、地球の暮らしも悪くないと、思い始めている
エステルだった。




































おわり



あとがき



PS2ゲーム「夜明け前より瑠璃色な」のSSです。
むー、お誕生日記念に書いてみたのですが、まだクリアしていないことも
あって、内容がありません。
エステルさんの良さの100分の1も伝えられてないですよ……。
次回はもう少し、がんばりたいところです。



それでは、また次の作品で。



��007年1月31日 エステルさんのお誕生日♪



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