2007/03/04

(ぷちSS)「俺だけのウェイトレス」(夜明け前より瑠璃色な)(エステル・フリージア)



 あのような約束をしてしまったのは確かに私ですし、聖職者としても
月人の誇りにかけても約束は守らなければならない。
「……くっ」
 それにしても、まさかあのようなことを言い出すとは思わなかった。



「じゃあ、エステルさんには左門でウェイトレスをしてもらいましょう」
「……え?」
「といっても、いきなりお客さんの相手をしてもらうわけにもいかないし」
「あの、左門とは?」
「ああ、俺がバイトしている店の名前です。イタリア料理屋でウェイターの
アルバイトをしているんですよ」
「そうなのですか……って、そうではなく、どうして私がアルバイトを
しなければならないのですか」
「先ほど『借りを返したいので、貴方の言うことをひとつだけ聞いてあげます』
って、言いませんでしたっけ」
「う……」



 まったく、あの朝霧達哉という地球人の男、少し意地悪です。
 とはいえ、いつまでもぶつぶつ文句を言っていても仕方ない。約束を
したのは私なのだから。
「それにしても、ちょっとスカートが短いのではないかしら……」
 
「ど、どうでしょう」
 私は左門のウェイトレスの制服に着替えて彼の前に立った。
「……」
 ぼーっと朝霧さんは私をみつめている。
「あの、朝霧さん?」
 そんなに見られると、恥ずかしいのですが。
「……あ、すみません。すごくよく似合っていますよ、エステルさん」
「あ、ありがとう……ございます」
 思わずお礼を言ってしまった。ど、どうして私がお礼など……。
 似合っていると言われれば嬉しいのですが、なんだか複雑な気持ちです。
「あの、では挨拶をしてみてくれませんか」
「?」
 私が怪訝そうな表情をすると、朝霧さんはその行為を実演して見せて
くれた。
 そ、そのようなことをこの格好でしたら……。
 ぽむっと顔が赤くなるのが自分でわかった。
 し、しかし、これも約束のため。
 私はスカートのすそをつまんで、軽く持ち上げ、頭を下げてこう言った。
「い、いらっしゃいませ。ご主人様」



「すみません、エステルさん。達哉が馬鹿なことをさせてしまって」
「い、いえ。それより、大丈夫なのですか」
 先ほどの挨拶をしたら、どこからともなくしゃもじが飛んできて、
朝霧さんの後頭部を直撃した。朝霧さんは今も昏倒している。
「いいんですよ。まったくうちの兄さんのバカが達哉にも感染したの
かしら……」
 そう言って、目の前の女性(鷹見沢菜月と言うらしい)は、ためいきを
ついた。



 制服を鷹見沢さんに返して、店を出た。
「今日はほんとうにすみませんでした。達哉にはきっちりお仕置きして
おきますので、これにこりずにまた来てくださいね。今度はお客様として」
「は、はあ」
「あ、もちろん御代はサービスしますから。……達哉のおごりですけど」
 鷹見沢さんは舌をちろっと出して笑う。そのしぐさがとても彼女に
似合っていて、私も自然に笑顔になった。
「そうですね。こちらに来るようなことがあれば、寄らせていただきます」
 ぺこりと頭を下げて、私は踵を返した。
 そして、礼拝堂までの帰り道で思った。
 地球人の中にも、いい人はいるのですね、と。



おわり



あとがき



誘惑に負けました。
書いている途中の文章があるのに、他の文章を書いてしまうのはよくないこと
ですが、絵の魅力にはかないませんね。
今回のお話は、ブタベストさんの3月4日付の日記がきっかけとなって
生まれました。
どうもありがとうございます。
一応、補足しておくと、本編にはこのようなシチュエーションはありませんので。
こういうのができるのは、二次創作ならではですね。



それでは、また次の作品で。



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