2007/06/27

(ぷちSS)「ふたりの疑問」(FORTUNE ARTERIAL)(東儀 白)



 かちっこちっと、壁にかけられた時計の針が動く音が聞こえている。
 ここは監督生棟の監督室。
 窓から空を見上げると、鉛色の空からはしとしとと雨が降っている。
 暇だなあと、支倉孝平は少し離れたところに座っている少女に目を
向けた。
 東儀白。自分よりもひとつ年下で、同じ生徒会に籍を置いている子だ。
 普段なら、ここにはあと3人いるのだが、今は不在にしている。
『財政報告』という仕事に、なぜ3人も必要なのか、それも、生徒会長・
副会長・財務の3人が出向く必要があるのか、孝平は疑問に思っていた。
 おろそかにしてはいけない仕事だとは思うが、報告だけなら財務だけで
事は足りる。つきそいが必要だとしても、それは孝平か白のどちらかで
十分ではないか?
 悩んでも答えは出ない。そもそも、特別に悩むことでもないのだが、
それ以外に仕事もないので、孝平は堂々巡りの思考を続けていた。
 ふと、白が端正な横顔をこちらに向けた。
「どうした?」
「あの、ひとつ気になっていることがあるんですけど」
 気になっていること……、自分と同じことだろうか。
 と孝平は思ったが、白が口にしたのは別のことだった。
「どうして支倉先輩と私は、役職がないんでしょう?」
「役職?」
「はい。たとえば、兄さまは財務ですし、瑛里華先輩は副会長です」
 言われてみれば、その通りだ。
 そもそも、おもしろいから、という理由だけで生徒会に入れられたのに。
「そうだな。別に肩書きにこだわるわけじゃないけど、何か役職に就いていると
思うと、気持ちも変わってくるかも」
「気持ち、ですか」
「うん、最初は無理矢理だったけど、俺もいつの間にか生徒会の一員になっていて。
でも、はじめからきちんとしていれば、もう少しすんなりと馴染めていたような」
 あまり乗り気ではなかったわりに、いざ生徒会に籍を置くことが決まれば
とことんこき使ってくれたある人物の顔が、孝平の脳裏に浮かんだ。
「それが、瑛里華先輩のいいところですよ」
 白がにっこりと微笑んだ。
「いいところなのかなあ……って、なんであいつの名前が出てくるんだ」
「どうしてでしょうね?」
「……」
 白はにこにこと微笑み続けている。
 そんなに顔に出やすいのだろうか、と孝平は悩んだ。
「まあ、これからも肩書きのない者同士、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
 ふたりして、ぺこりと頭を下げあった。
 いつの間にか、窓の外の雨はやんでいた。



0 件のコメント:

コメントを投稿