2007/06/07

(ぷちSS)「願い事、ひとつ」(FORTUNE ARTERIAL)(千堂 瑛里華)



「さあ、支倉君。年貢の納め時ね」
「む……」
 ここは監督生棟の監督室。俺、支倉孝平の目の前には、満面に笑みを浮かべた
千堂瑛里華が立っている。
 今日は彼女の誕生日だということを知ったのは、ついさっきのこと。
 仲間の誕生日も知らないなんて、と、ちょっと理不尽な理由で突っかかって
きた彼女は、俺にトランプで勝負を挑んできた。
 負けたほうが勝ったほうの言うことをひとつだけ聞く、という条件で。
 過程はともかく、結果だけ言えば俺の惨敗だった。
「たった一言、言えばいいのよ。『瑛里華、お誕生日おめでとう』って」
「く……」
 取るに足らない一言、だとは思う。なのに、どうして俺はこんなにも
躊躇してしまっているのだろうか。
「なんなら、もう一回勝負してあげてもいいけど?」
 という彼女の一声で、俺の覚悟は決まった。
 そんな恥ずかしいことが出来るか。
 そんなに言わせたいなら、言ってやる。
 すー、はー。
「深呼吸なんて必要ないのに」
「いいだろ、別に」
 俺は精一杯お腹の中に息をためて、一息に言った。
 がちゃり。
「『瑛里華、お誕生日おめでとう!』」
「ありがとう、支倉君」
「いやいや、ついに瑛里華にも春が来たか」
「千堂先輩?」
「兄さん、春ってなんですか」
「おや、知らないのか。英語で言うならspringのことだけど」
「そんなことを言ってるんじゃありません!」
「先輩、いつの間に」
「おや、気づかなかったのか。ちゃんとドアを開ける音がしたと思うが」
「む……」
「まあ、何はともあれ、これからおもしろいことになりそうで、俺は嬉しいよ」
「私は全然嬉しくないわ」
「俺も」
「おやおや、やっぱりふたりは気が合うようだね」
 心底嬉しそうに言う千堂伊織に、孝平と瑛里華は顔を見合わせて、同時に
ため息をついた。



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