2007/08/24

(ぷちSS)「アイスはいかが?」(夜明け前より瑠璃色な)(エステル・フリージア)






 八月も残り1週間となった。例年ならこの時期は残暑なのだろうが、今年は
どうやらまだまだ暑さが続くようで、朝から晩までセミがそこかしこで合唱
している。
 風呂掃除に続いて庭の掃除を終わらせた達哉は、イタリアンズの散歩に
出かけることにした。
「散歩だぞ、イタリアンズ」
「「「おん♪」」」
 先ほどまでは暑さに負けて地面に寝そべっていたのに、散歩となると途端に
元気に。
ぱたぱたとしっぽを振っているのがイタリアンズのいいところなのだろう。
 イタリアンズにリードをつけていると、キッチンの掃除が終わったのだろう、
麻衣とミアがリビングに姿を見せた。
「あ~、やっと終わったよ~」
「お疲れ様です、麻衣さん」
 ミアは冷たい麦茶を麻衣と達哉に差し出す。朝霧家の兄妹はそれぞれミアに
お礼を言って、一気に麦茶を飲み干した。
「それじゃ、俺は散歩に行って来る」
 三本のリードを掴んだ達哉に、麻衣が声をかける。
「お兄ちゃん、帰りにアイス買ってきて♪」
「ああ、新しくできたお店があるって言ってたっけ。ハーゲンなんとか、だっけ?」
 最近、月人居住区の近くに新しいアイス屋ができた。地球人だけではなく、
暑さに慣れない月人もよくお店に来るようで、時には行列もできるほどだとか。
「そうそう。ちょうど、か・え・り・み・ち、だからいいかなって」
 にやにやと笑いながら麻衣。
「そうですね。帰り道、なのですから」
 同じく、にこにことミア。
「いや、散歩のコースとしては帰り道じゃないんだけど……」
 にやにや。
「そりゃあ、ちょっと礼拝堂に行こうかなとは思ってるけど」
 にこにこ。
「……」
 これは、何を言っても言い訳にしかならないという状況だ。
 そう思った達哉は、何も言わずに歩き出した。
 妹のお気楽な、「エステルさんによろしくね~」という声を背中に受けて。



 ぎらぎらと輝く日差しの中、弓張川の川岸を歩き、物見の丘公園で
イタリアンズを自由に遊ばせて、最後に礼拝堂に行く、というのがここ最近の
イタリアンズとの散歩コースだったりする。
 礼拝堂が見えて来た時、急にイタリアンズのスピードが速くなった。それは、
礼拝堂の入り口に見慣れた桃色髪の司祭様がいたからだ。
「おはよう、アラビアータ、カルボナーラ、ペペロンチーノ、そして達哉」
「「「おん♪」」」
「おはようございます、エステルさん」
 エステルはしゃがみこむと、イタリアンズを順番に撫で回していった。
 五分ほど経ち、ようやくエステルは立ち上がった。
「ふぅ……」
 満足げな表情で頬を上気させているエステルを見ると、いつも達哉はどきどき
してしまうのだった。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、今日も暑いなあと思って」
 少しわざとらしく話をそらした達哉だったが、エステルはそれに気付くこと
なく、
「そうですね……」
 と、暑さを恨めしく思うような表情をした。
「やはり、暑さは苦手ですか?」
 私服へと着替えたエステルさんと共に歩く。目指すは麻衣の言っていた
アイス屋さんだ。
「ええ。礼拝堂の中は天井も高いので、温度も低くて過ごしやすいのですが、
さすがに屋外となると……」
 街路樹の日陰に入るように歩きながら答えるエステルが可愛らしく見えて、
達哉は微笑んだ。
「なっ、何がおかしいのです」
 ぽかり。
 げんこつで達哉の頭を叩くエステルだが、もちろんそれは本気ではなく。
「そういう達哉は、平気そうですね?」
「そう見えるだけですよ」
「そうなのですか? とてもそうは見えないのですけど」
「ええ。だって俺は、いつもエステルさんにくらくらしてますから」
 ぽかぽかぽか。
 顔を真っ赤にして達哉を叩くエステルを、イタリアンズが不思議そうに
眺めていた。



「ここなのですね……」
 夢を見ているような表情で、アイス屋を見つめるエステル。
「そうみたいですね。それにしても……」
 すごい、行列だった。
 さすがは麻衣オススメのお店、というべきだろう。店の雰囲気もよさそうだが、
店員のレベルがかなり高い。笑顔をたやさず、客の注文にスピーディーに
応対する。
 同じ飲食業のバイトをしている達哉には、そのすごさがよくわかる。
「じ~」
「ど、どうしたんですか、エステルさん」
 エステルが達哉の顔をじとーっと見つめていた。
「なんだか、あの店員さんに見とれているような気がするんですけど」
「え?」
 そう言われて、あらためて店員を見てみると、……確かに、レベルが高い。
 カモがトレードマークなのか、制服にワンポイントが入っているのが可愛らしい。
もちろん制服だけではなく、女の子の可愛さもかなりのものだ。将来はモデルに
なってもおかしくないぐらいだなあ、と達哉は思った。
「確かに、見とれていてもおかしくないですね」
「やっぱり、見とれていたんですかっ」
 三度げんこつを振り上げるエステル。
「ええ。でも、俺が見とれているのは、今、この目の前にいるエステルさん
ですけど」
「ああ、貴方はいつもそのようなことばかり言って!」
 ぽかぽかと叩き続けるエステルだが、その表情にはなぜか微笑が
浮かんでいた。















おわり



あとがき



PS2ゲーム「夜明け前より瑠璃色な」のSSです。
あれ、なんだか予定とずいぶん変わってしまいました。
しかも、タイトルに偽りありだし(笑)。
今度は、麻衣を中心にしたアイス話でも書いてみたいですね。



それでは、また次の作品で。



��007年8月24日 朝霧玲一さんのお誕生日♪♪



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