2007/08/04

(ぷちSS)「おねがい麻衣シスター」(夜明け前より瑠璃色な)(朝霧 麻衣)






「おはようございま~す」
「おはよう、麻衣」
 階段を降りてきた麻衣を、達哉の声が出迎えた。
「あれ、お兄ちゃんがキッチンに立ってるのも久しぶりだね。
ミアちゃんはどうしたの?」
 達哉はテーブルに着いた麻衣に朝食を出しながら答える。
「ああ。フィーナが朝から公務だってのは昨日聞いてただろ。その
フィーナから連絡があって、大使館までお使いに出かけたんだ」
 大切なものを忘れてしまったから、大至急届けて欲しい。というのが
カレンからミアに伝えられたらしい。
「姉さんも、朝早く出て行ったよ。今日は絶対に19時までに帰るから、
ってさ」
 さやかも最近は博物館も落ち着いており、何事もなければ予定の時刻には
帰れるのだろうが、念には念を入れて早く出かけたようだ。
「だから、今夜の麻衣の誕生パーティーにはみんな揃うはずだ」
「そっか。……エステルさんも?」
「ああ。話をしたら喜んでオッケーしてくれたよ。エステルさんは教団の
ありがたい教えを話してくれるって言ってた」
「あはっ、エステルさんらしいね♪」
 教団、静寂の月光は月人の多くが信仰している宗教で、エステルは
満弦ヶ崎の礼拝堂で司祭を勤めている。
 以前は、月人だけ、という印象もあった礼拝堂だが、昨年の見学会以来、
徐々に地球人にも教団について興味を示す人が増えているようだ。
 エステルは、月人にも地球人にも分け隔てなく接する司祭として、
評判になっている。
「じゃあ、未来の義妹としては、ありがたく拝聴しないとね」
 未来の義妹、その言葉が指し示す意味に気づいた達哉は、真っ赤になって
否定した。
「ちょっ、別に俺とエステルさんは結婚するって決まったわけじゃ!」
「へー。エステルさんとは遊びだと」
「そんなわけないだろっ」
「……おにいちゃんさえ良ければ、私はいつでもオッケーだよ?」
 口元に指を添えて、にっこりと微笑む麻衣。
「う……」
「どうしたの?」
「い、いや、兄をからかわないように」
 と言って、達哉は洗い物を片付けるべく、水道の蛇口をひねった。
 一瞬、ほんの一瞬だが先ほどの麻衣の仕草に見とれてしまったのは、
麻衣にもエステルにも秘密にしようと、密かに誓う達哉であった。



「ごちそうさまでした」
 そう言って、お皿を持ってきた麻衣は、自ら洗い始めた。
「あ、悪いな」
「ううん、これぐらいは私にやらせてよ。お兄ちゃんには『私の誕生
パーティーに出来るだけたくさんの人を集めること』って仕事があるんだから」
「ああ。大切な麻衣のお願いだからな」
 昨年は、みんなの都合が合わずに、達哉と麻衣のふたりだけだった。
 なので、今年はとにかく盛大に。
 月に戻っていたフィーナとミアも、カレンさんに都合をつけてもらって地球に
来てもらった。
 獣医になるために一人暮らしをしている菜月にも連絡した。
 菜月の母の春日さんも、「イク」と返事をくれた。
 翠にも声をかけ、リースを捕まえて、こっそりフィアッカにも参加をして
もらって、とやることはまだまだいっぱいある。
「それじゃあ俺は出かけてくるから。イタリアンズの散歩、頼んでもいいか?」
「うん。行ってらっしゃ~い」
 達哉を見送り、お皿を洗い終わると、麻衣はイタリアンズとの散歩に出かける。
「そうだ、エステルさんのところに行ってみよう」
 きっと、目をきらきらさせて喜ぶに違いない。
 麻衣は未来の義姉の笑顔を思い浮かべて、にっこりと微笑んだ。






おわり






あとがきらしきもの



昨日のリベンジってことで。
ブタベストさんのお話と絵にヒントをいただき書いてみたのですが、
なぜかエステルルート準拠になってました。
まあ、これはこれで(笑)



0 件のコメント:

コメントを投稿