2007/12/29

(ぷちSS)「ふたりきりのティーパーティー」(FORTUNE ARTERIAL)(千堂 瑛里華)



業務報告~。
SS「ふたりきりのティーパーティー」を追加しました。
「FORTUNE ARTERIAL」のヒロイン、千堂 瑛里華のSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうからどうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。





「ふたりきりのティーパーティー」(FORTUNE ARTERIAL)(千堂 瑛里華)



 コンコン
 ノックの音が聞こえたので扉を開けると、瑛里華が立っていた。
「こんばんは。今日もお邪魔するわね♪」
 楽しそうな瑛里華だったが、俺の様子がいつもと違うことに気付いて、
訝しげな表情を浮かべた。
「どうかした?」
「あー、まあ、とりあえず入ってくれ」
 廊下で立ち話もいろいろと人目を引きそうなので、俺は瑛里華を部屋に
招きいれた。
「あら、私が最初なんて珍しいわね」
 瑛里華がそう思うのも当然で、いつもはかなでさん&陽菜の悠木姉妹が
先に来ている。
「今夜は、かなでさんも陽菜も用事があるってさ。ついさっき、かなでさん
から電話が」
「そうなの。じゃあ、白ちゃんは?」
 俺は瑛里華のために座布団を用意すると、自分の定位置に腰を落ち着ける。
「白ちゃんは夕食後に直接聞いたんだけど、今日は東儀先輩に呼ばれている
から、お茶会には参加できないそうだ」
「あらま。それじゃ、もしかして八幡平君も……」
 俺は首を縦に振る。
「かなでさんからの電話の内容を伝えると、『今日は中止だな』って言って
部屋に戻った」
 ……。部屋の中を沈黙が支配した。
「まあ、年末だし、みんなが揃わないのも仕方ないだろ。だから今日は……」
「それじゃあ」
 おもむろに口を開いたかと思うと、瑛里華はいつもの勝気な笑みを浮かべた。
「今日は、ふたりきりのティーパーティーね!」



「なんだって?」
 俺は瑛里華の予想外のセリフに、思わず聞き返していた。すると、瑛里華は
やはり同じ笑顔で、同じセリフを繰り返した。
「いや、あのさ、それはいろいろ不味くないか」
 男の部屋に、男と女がひとりずつ。寮則としては問題が無いだろうが……。
 動揺する俺とは対照的に、瑛里華は普段と変わらない様子だ。
「別に私は構わないわ。時間も遅いわけじゃないし。もっとも、支倉君が
自分を抑えられないって言うなら、話は別だけど?」
 こちらを試すかのように、上目遣いで俺を見上げる瑛里華。それを言われ
たら、そんなふうに見つめられたら、引くわけにはいかない。
 かくして、ふたりきりのお茶会は始まった。



 最初は学院生活のことが話題だったが、ふたりきりということもあって、
次第に話題は瑛里華のことに。
「そうね。衝動はまれにだけど起こることがあるわ。でも、私は抑えてる。
兄さんはどうしてるのかは知らないけど。まあ、あの人はやりたいように
してると思うわ」
 瑛里華は自分で淹れた紅茶を飲むと、話を続ける。
「私は絶対に、その衝動に身を任せたりなんかしない。だいたいね、人の首
から血を吸うなんて今時エレガントじゃないもの」
 エレガントならいいのかという疑問は、口には出さない。
 決して瑛里華は強がりからそう言っているわけではない。それは彼女の瞳を
見ればわかるし、これまで彼女と過ごしてきたことからも明らかだった。
 瑛里華は気持ちも行動もストレートで、それが俺を安心させる。彼女が
そう言うなら、きっとそれは守られるべき誓いなのだ。



「そう言えば、前にも支倉くんとふたりきりになったことあったわよね」
 あれは、今から半年くらい前のこと。監督生棟で瑛里華と”偶然”ふたり
きりになって、どういうわけだかトランプ勝負で負けた俺は、とあるセリフを
言わされたのだ。
「ああ、そんなこともあったなあ……」
 あまり思い出したくない、というか、今まですっかり忘れていたのに。
「あの時の支倉くんは傑作だったわね♪」
 嬉しそうに俺の顔を見つめる瑛里華。彼女に悪気はないんだと思うが。
「どうだったかな……。昔のことは思い出さないようにしているんだ」
 と、俺はそっけなく答えた。
 すると、瑛里華は急にまじめな顔になった。
「どうかしたか?」
 しばらく考えているようなしぐさで腕を組んでいたが、突然、俺の頭を
げんこつで小突いた。
 コツン
「何するんだよ」
「何って……、そ、そう、性根を入れ替えてあげようと思って!」
「はあ?」
 何が言いたいんだ?
「今の支倉くんは、すごくつまらなそうな表情だった。この私が目の前に
いると言うのに、一緒にいるあなたがつまらなそうにしているなんて、私に
とってはガマンできないのよ」
 無茶苦茶だ。だが、これが千堂瑛里華だとも言える。自分のみならず、
他人をも巻き込んでしまうパワー。それを成し遂げてしまう実行力。自分が
決めた行動に対しては自信を持ち、止まることなくゴールまで突き進む。
「何がおかしいのよ」
 言われてはじめて、俺は自分が笑っていたことに気が付いた。
 そうだ。何かを変えるには、まず自分が変わること。そのためには、後ろを
振り返っている時間も、ましてやつまらなそうにしている時間もないんだ。
「いや、副会長の言うとおりだと思ってね」
 紅茶を口に含むと、さっきまで飲んでいたよりも美味しく感じられた。



「こんなところかしら」
 ティーセットをふたりで片付ける。いつもよりも人員は少ないが、それでも
その作業は苦ではなく、むしろ楽しかったり。
「ああ、お疲れ様」
「どういたしまして♪」
 俺がねぎらいの言葉をかけると、まぶしい笑顔。こういうところが瑛里華の
いいところだろう、とあらためて思った。
「じゃあ、また明日ね」
 そう言って、瑛里華は部屋を出て行った。
 今日は気持ちよく眠れそうだと思いながら、俺は眠りにつくのだった。






 おわり



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