2008/01/06

「新年最初の白いやつ」(舞阪 美咲)



業務報告~。
SS「新年最初の白いやつ」を追加しました。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうからどうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。



イメージイラストは、ブタベストさんのブログの1月1日付です。





「新年最初の白いやつ」(舞阪 美咲)



 1月1日。新年最初の日、ということで毎年お馴染みとなった初詣。
 空を見ると、太陽が雲間から出ていて、俺たちの身体をあたためてくれている。
「いい天気だね~、雄一♪」
 のんきな声が、俺、笹塚雄一の隣にいる女の子の今年の第一声だ。
「そうだな、美咲」
 俺が答えると美咲はいつものように、にっこりと笑った。
 美咲はコートにマフラー、耳あてに手袋と、完全防寒モードである。
「すごい格好だな」
「えへへ~、見てるだけで雄一もあったかくなれるように、いっぱい着込んで
みました」
 まあ、美咲らしいといえば美咲らしいセリフだった。
「あらまあ、このふたりは今年もこんな感じなのかしら。ね、直樹」
「僕に聞かれても困るよ、麻美姉ちゃん。でも、雄兄ちゃんだからね、
わかんないよ~」
 こそこそ話しているようだけど、丸聞こえだぞ、前のふたり。
 俺と美咲の前を並んで歩くのは、舞阪家長女・麻美さんと、同じく
舞阪家長男・直樹。
このふたりに次女・美咲を加えたのが、舞阪家の子どもたちである。
 その隣に住んでいる俺は、いわゆる幼なじみであり、小さい頃から
一緒に過ごしており、この初詣も恒例の行事となっている。
 俺と美咲が高校に入学する時までは、両家の親たちも一緒に初詣に
行っていたんだが、最近は子どもたちだけ。理由を親に聞いたら、
「後は若い者同士で……」
 と言われたからだったりする。……って、そりゃ、お見合いのセリフ
だろうに。
 そんなわけで、俺たちは歩いていくことが出来る近所の神社に向かった。



 無事に神社に着いて、滞りなく参拝を済ませた俺たち。願い事と
いっても特に願うほどのものはなく、強いて挙げるなら、隣のコイツが
少しはおとなしくしてくれますように、ってところだろうか。そりゃあ
まあ、たった五円ぽっちのお賽銭では願うことすら申し訳ないと思うけど。
「雄一、おみくじ引こうよ」
 美咲に手を引っ張られ、おみくじ売り場まで。
 やはりお正月といえばおみくじは欠かせないイベントのようで、俺たち
以外にもたくさんの人でいっぱいだ。
「はい、どうぞ♪」
「あ、ありがとうございます」
 愛想のいい巫女さんに少しドキドキしながら箱を受け取り、シャカ
シャカと振って棒を出す。隣では美咲も同じように……いや、やたら
気合を入れて棒を出していた。おいおいそんなに振ったら壊れちゃうだろ。
 棒に書かれていた番号のおみくじを受け取り見てみると、中吉だった。
「なになに、全体的な運は良好ですが、隣人に悩まされる傾向が
あります……か」
 幸先がいいのか悪いのか、どうにも判断しかねる結果だ。
「どうだった、雄一?」
「ああ、中吉だった。美咲は?」
「私はね、今年もおっきいよ!」
 ……それは胸のサイズじゃなくて、大吉ってことでいいんだよな?
「ええと、今年は最高の年になりそうです。隣人をも巻き込むパワーで、
どこまでも突き進んでいきましょう」
 まあ、そんなことじゃないかと思ってたけどね。とほほ……。
 浮かない顔をした俺を見て、先ほどの愛想のいい巫女さんが破魔矢を
薦めてきたので、いつもは買わない破魔矢を、俺は三本も買った。ほら、
一本の矢よりも三本の矢のほうが折れないって言うし。
「ありがとうございました~」
 という巫女さんの声に見送られて、俺たちは神社を後にした。
 ちなみに、舞阪家の三人は全員大吉だった。なんで俺だけ……。



 家に着いた俺は、お雑煮を食べ、おせちを食べ、届いていた年賀状を
仕分け終えると、ぼんやりと正月番組を見ていた。たいしておもしろくも
ないが、ぼけっと見ている分にはちょうどいい。
 うつらうつらとし始めた頃、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
 俺はぼんやりした頭でドアを開けると、そこには美咲が立っていた。
「どう? さっき神社の巫女さんに鼻の下伸ばしてたけど、私のほうが
かわいいでしょ♪」
 美咲は、初詣の時の完全防寒モードではなく、なぜか巫女服を着ていた。
「ど、どうしたんだ、それ」
「うん♪ お姉ちゃんがね、貸してくれたんだ~。お正月だけの特別で、
これで雄くんもイチコロね、って」
 さすがは、麻美さん。美咲の姉だけはあるな。
 美咲はベッドに腰掛けると、俺が買ってきた破魔矢を手に持って、
にっこり笑う。
「おみくじが悪くても、この破魔矢で万事解決! 今ならお安くして
ますよ~♪」
 と、客引きの真似をしてみせる。
 いや、それは俺のだろ。
 俺は破魔矢を取ろうと手を伸ばした時、美咲の緋袴の中身が目に入った。
「……!」
 まばゆいほどの純白が網膜に焼きつく。な、なんで履いて……いや、
そうじゃなくて!
 動揺する俺に気付いた美咲は、ニンマリと笑った。
「お姉ちゃんの言うとおり、やっぱり雄一はイチコロだね♪」



 新年最初の日。年が新しくなっても、俺たちはやっぱり俺たちで。
 今年も美咲に振り回される毎日なのかもしれない。
 でも、それならそれで、めいっぱい楽しんでやればいい。そう思った。
「美咲。今年もよろしくな」
「私こそ、今年もよろしくお願いします♪」
 いつものにっこり笑顔。
「不束者ですが、やさしく・し・て・ね♪」
 ああ、いつもの美咲だ。
 こうして、俺たちの新しい年は、笑い声とともに始まるのだった。






 おわり



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