2008/01/11

(ぷちSS)「ふたりだけの秘密」(FORTUNE ARTERIAL)(東儀 白)



業務報告~。
SS「ふたりだけの秘密」を追加しました。
「FORTUNE ARTERIAL」のヒロイン、東儀 白のSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうからどうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。





「ふたりだけの秘密」(FORTUNE ARTERIAL)(東儀 白)



 新年になってから最初の登校日。
 支倉孝平は、会長である千堂伊織の指令で、食堂棟に向かって歩いていた。
「くそっ、どうして俺が……」
 ぼやきは白い吐息となって、すぐに霧散する。孝平は歩きながら、伊織の
宣言を思い出していた。



「今日は、大掃除をしよう!」
「はぁ」
「どうしたどうした、やる気がないぞ。支倉孝平君?」
「いや、だって」
「『だって、年末に大掃除したじゃないですか』と言いたいのかい」
 俺の心を読むのはやめてほしい。
「一年の計は元旦にありと言う。最初に大掃除をすることによって、今年も
学院を大いに盛り立てていこうという、俺の魂の叫びなんだよ……」
 いかん、何やら舞台モードに突入されてしまった。
 瑛里華や東儀先輩はと言うと、もう慣れたものなのだろう、それぞれに
掃除をはじめている。言っても無駄ってことか。
 俺も、そんなふたりに倣うように、まずは自分の作業机の上から掃除を
はじめることにした。
「そうかそうか、わかってくれるか! ありがとう心の友よ……くくぅ」
 出てもいない感動の涙をぬぐうのは、舞台の上だけにしてください、会長。



 大掃除も一段落ついた時、突然会長が
「支倉君。買出しを頼まれてくれないか」
 と、俺に声をかけてきた。
「何を買ってくればいいんですか」
「賛辞のおやつ」
 なんだって?
「冗談だ、3時のおやつだよ」
「鉄人にはすでに連絡してある。伊織の名前を出せば、問題ない」
 東儀先輩が、こちらを見ることなく、そう言った。
「さすがは征。気が利くね」
「俺に電話をさせたのは、お前だろう」
 会長に対して、そっけなく返す東儀先輩。
「そういうわけで、頼むよ♪」



 にこやかに送り出されたものの、どこか釈然としない気持ちもあって。
 まわりにも気を配れなくて、気が付けば、白ちゃんにぶつかっていた。
「きゃっ」
「ご、ごめん」
 よろめく彼女をなんとか支える。
「あ、支倉先輩。こんにちは」
 いつもながら、白ちゃんの間を外すタイミングには戦慄を覚える。
「こんにちは。それより、ケガはない?」
 白ちゃんは、自分の身体をぐるりと見て、こくんと頷いた。
「そっか、よかった……。ちょっと考え事をしててね、本当にごめん」
「いえ、大丈夫ですから。それより、どうしたんですか?」
 俺は白ちゃんに、会長に頼まれた経緯を話した。
「じゃあ、わたしもお手伝いします」
「え、でも……」
 白ちゃんは、ローレル・リングの制服を身につけている。ということはだ、
ローレル・リングの活動の真っ最中ってことになる。邪魔をするわけには……。
「……もしかして、ご迷惑ですか」
 少し悲しげな白ちゃんの声。ああ、そんな声出されたら、断れない
じゃないか。
「わかった。じゃあ、一緒に行こうか」
「はい」
 先ほどよりも嬉しそうな声に聞こえた。



 白ちゃんと一緒に食堂棟に行き、鉄人特製のおやつを受け取った。
「すごい量ですね……」
 白ちゃんが、目を丸くしている。
「ああ」
 なにも、こんなに用意してくれなくてもいいのに。
 俺の両手と目の前は、鉄人特製おやつで完全にふさがっていた。
「白ちゃんがいてくれて、助かったよ」
「お役に立てて、何よりです」
 少し自慢げな感じの声。嬉しそうな顔が荷物で見られないのが、残念だ。
 俺は白ちゃんの案内で、ゆっくりと階段を上って行った。



「あら、東儀さん。……その荷物は?」
 えっちらおっちらと階段を上って、噴水前に着いた時、シスター天池が
声をかけてきた。と言っても前方が見えないので、声だけが頼りなんだが。
「支倉先輩が、伊織先輩に頼まれた荷物なんです」
 俺の代わりに白ちゃんが答えてくれた。
「支倉君? ……あら、ほんと」
 荷物を回り込んで、ようやく俺に気付いたようだ。
「こんにちは、シスター。すみません、手が離せなくて」
「こんにちは、支倉君。本当に手が離せないようですね、ふふふ」
 笑われるのも当然だろう。
「そういえば、先ほど千堂さんと東儀さんは、一緒に白鳳寮のほうに向かい
ましたよ」
「兄さまもですか?」
「ええ。急な用事ができた、と言ってましたけど」
 なんだそりゃ。もしかして、あまり急ぐ必要がなくなったのか?
「じゃあ、支倉先輩。ちょっとだけ、休憩していきませんか?」
 白ちゃんが珍しく、俺にそんな提案をした。



 白ちゃんに招かれて、何度か来た事のある礼拝堂に入った。
 荷物を下ろすと、随分と身軽になった。
「お疲れ様です、支倉先輩」
「ありがとう」
 白ちゃんが渡してくれたお茶を、一気にのどに流し込んだ。
「わっ、すごいです」
「そんなことないと思うけど」
 思っていたよりも荷物が重たくて、のどに渇きを覚えるほどだった
みたいだ。
 やはりここは、鉄人ではなく、会長を恨むべきだろう。
「まあ、無茶なことにはさすがに慣れてきたけどね」
 あまり慣れたくないのが本音なんだけど。
「でも、ほんとに助かったよ。白ちゃんがいなかったら、途中で転んで
せっかくの鉄人のおやつを台無しにしてたかもしれない」
「わ、わたしはほんの少しだけお手伝いしただけです」
 顔を赤くして首を振る白ちゃん。
「それじゃあ、お礼に白ちゃんのお願いをなんでも聞いてあげるよ。
なんでもいいから、言ってみて」
「え、お、お願いですか? そんな悪いです」
 と渋る白ちゃんをなんとか説得して。
「じゃ、じゃあ、今度お暇な時があったらでいいんですけど、ローレル・
リングのお手伝いをお願いしてもいいですか?」
 と言わせることができた。
 俺はもちろん、と頷く。
「ああ、お安い御用だ」
「よかった……では、ゆびきりしてもいいですか?」
 ふたりだけの秘密。なんだかくすぐったくて、でも、なんだか嬉しかった。
 ゆびきりが終わった後で、白ちゃんはにっこり笑って、こう言った。
「初めて、兄さまに秘密ができました」






 おわり



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