2008/04/19

魔法少女リースリット・ノエル 第2話






第2話 魔法のような奇跡



 まばゆい光を放つそれは、少女の目の前で制止する。
 どうして彼女には向かっていかないのだろう。俺にはすごい速さで
向かってきたのに。
「フィアッカ?」
 少女は杖に問いかける。
『ふむ……おそらく、つがいだろうな』
「……わかった。寂しいんだと、思う」
 そう言うと、少女は杖を光に向ける。
「フィアッカ、解放して」
『了解』
 少女の声に反応して、杖が光った。その光はやがて杖から離れて、
空中を漂う。そして、最初の光と重なると、より大きな光になった。
『リース、準備OKだ』
「うん」
 少女が杖を構えた時、それまでおとなしくしていた光が、俺を
目掛けて動いた。
「え?」
 明らかに油断していた俺は避ける間もなく、光の直撃を受けた。
「うわぁ! ……あ?」
 衝撃が来ると思った俺は思わず声を上げかけたが、衝撃は来なくて。
伝わってくるのはやわらかい感覚と不思議な気持ちだった。
「……なんだか、イタリアンズにじゃれつかれてるみたいだ」
 光は、俺の胸にすりよっているように見えた。俺はおそるおそる手を
伸ばしてみると、喜んでいるようにも思えた。
「じっとしてて」
 少女の声は、俺に向けてのものか、それとも光に向けてのものか。
 少女が何かを唱えると、杖の形状が変わり、昨日と同じ緑色の光が
周囲を照らした。



 緑色の光が収まると、あの不思議な光はなくなっていた。
 昨日とまったく同じ光景。やっぱり、あれは夢じゃなかったんだ。
 そして今起きたことも、もちろん夢じゃない。
 俺は目の前に立っている少女を見ると、少女も俺を見ていた。月が後ろ
から照らしているため、彼女の表情はわからない。
 しばらく、お互いに見つめあっていると、彼女が口を開いた。
「今、見たことは忘れてくれると、嬉しい」
「……残念だけど、忘れられそうにないよ」
『まあ、そうだろうな』
 彼女と俺以外の声が聞こえた。……やっぱり、杖だよな?
『そう、そなたの考えていることは正解だ。私はリースの持っている杖だ』
 杖が喋っている。さっきから彼女と杖の会話は聞こえていたが、
話しかけられるとあらためて本当だと実感する。
『自己紹介させてもらおう。私はフィアッカ。フィアッカ・マルグリットと
いう。そして』
「……リース。リースリット・ノエル」
 彼女はぶっきらぼうに、名前だけ答えた。
『もしよければ、そなたの名前を教えてもらえないかな』
「俺は、朝霧達哉と言います」
『達哉か。先ほどリースが言ったが、今日のことを忘れてくれるという
ことは、やはり無理な相談か?」
 口調は丁寧で、脅すような雰囲気はない。何といっても杖なので、
表情が伺えないが、口調からは悪い印象は受けない。
「……そうだな。忘れようったって忘れられないと思う。魔法使いと
出会ったことなんて」
 俺の言葉に、リースは怪訝な表情を浮かべた……ように見えた。
『なるほど、魔法か。……確かに、そう見えるかもしれぬな』
「……違うのか?」
『まあ、それは大したことではないのでな。では、質問を変えよう。
今日のことは秘密にしておいてもらえないか。もちろん、詳しいことは
話せないが、出来る限りそなたの質問には答える、という条件を
つけさせてもらう』
 それなら、俺が断る理由はどこにもなかった。



「ありがとうございましたー」
 幼なじみの鷹見沢菜月の元気な声が店内に響き渡る。昨日と同じように、
俺はバイトをしていた。仕事をおろそかにしているつもりはないが、
菜月には俺の心が今ここにないことがわかるのだろう。何も言わずに、
俺のフォローをしてくれていた。
 今度、何かプレゼントでもしよう。と言うことを考えられるように
なったのは閉店間際になったからで、それまで俺はずっとリースと
フィアッカから聞いた話のことばかり考えていた。
 ふたりの話によると、リースは月人で、ロストテクノロジーというものの
管理をしている一族らしい。
 ロストテクノロジーとは、その名前が示すように、”失われた技術”の
ことで、遥か昔の月と地球の戦争があった頃に、使用されていたとのこと。
 そして、ロストテクノロジーの中には取り扱いが危険なものもあり、
リースたち一族はロストテクノロジーの探索、捕獲、運用、管理を担っており、
それを統轄しているのが、”静寂の月光”と呼ばれる、教団なのだそうだ。
 月の生活には様々な技術が使われているが、それらの多くはロスト
テクノロジーであり、それを管理する教団は月の国教も司っているので、
月社会においては絶大な影響力を持っていると言える。
 そういうわけで、昨日、俺に向かってきたあの光もロストテクノロジーの
ひとつだったわけだ。ちなみに、今回のロストテクノロジーは危険なもの
ではなかった。詳しくは教えてもらえなかったが、どうやら疑似ペット
みたいなものらしい。フィアッカが言うには、犬好きの俺を察知した光が、
自動的に俺に近づいたようだ。ふたつあった光は、オスとメスだとか。
光にオスもメスもあるのかと思うが、そう言われれば納得せざるを得なかった。
 満弦ヶ崎周辺には遺跡がいくつも点在しており、時折ロストテクノロジーが
発掘されたりするらしく、リースはしばらく地球にいるらしい。



「それにしても、満弦ヶ崎湾って、ほんとに丸かったんだなあ……」
「え、どうして? 地図にだってちゃんと載ってるじゃない」
 菜月がそう思うのも当たり前かもしれないが、それを実際にこの目で見たら、
きっと俺と同じ感想になると思う。
 昨日の話の後、信じられないかもしれないが、俺は空を飛んだのだ。
『まあ、せっかく出会ったのだ。土産程度に思えばいい』
「Fモード、スタンバイ」
 リースの言葉でフィアッカの形状が変化する。そして、淡い光を放つ
フィアッカを俺に軽く触れさせ、
「エステル・マジカル、フライング開始」
 リースの呪文が終わると、俺たちは徐々に浮かび始めた。
「う、うわあああ」
『そんな声を出さずともよい、落ち着け達哉』
「大丈夫」
 そんなこと言われても、はじめてなんだから落ち着けるわけがない。
「平気」
 俺が不安なのがわかったのだろう、リースは俺の手を握ってくれた。
リースの手は小さくて、あたたかかった。
 それで俺は落ち着いて、眼下の光景を見ることが出来たのだ。
 それはまるで、魔法のような奇跡の満弦ヶ崎湾の光景だった。



「ま、ぼーっとしてるのもいいけど、まだ閉店じゃないってことを
忘れないでよ?」
 手に持ったお盆で、ぺこし、と俺の頭を殴る菜月。
「お、おう」
 俺が頭を撫でていると、カランコロンとカウベルの音が聞こえた。
「いらっしゃいませ。……あれ?」
 入り口のほうを見ても、誰もいない。気のせいかと思った時、
見覚えのあるネコミミの帽子が、扉の向こう側にちょこんと見えているのに
気が付いた。
 あれは、もしかして。
 俺は扉を開くと、小さなお客様を出迎えた。
「いらっしゃいませ。トラットリア左門へようこそ、リース」






 to be continued…















 次回予告。



「みなさん、こんばんは。エステル・フリージアです。
 ロストテクノロジーが今回はじめて登場した単語です。
 これは重要なので、きちんと覚えておいてくださいね。
 さて、次回はどうなるのでしょうか。私もいよいよ本編に
登場しますので、次回も見てくださいね。
 次回、魔法少女リースリット・ノエル、第3話。
『あらたな魔法、発現』。
 次回も、エステルマジカルがんばります!」



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