2008/04/01

魔法少女リースリット・ノエル






 それは、満月が天高く輝く夜だった。
 物見の丘公園までやって来た俺に、突然降りかかる災難。
 そこに現れたのは、ひとりの少女。
 きらきらと月の光を浴びて輝く、流れるような金色の髪。
 どこまでも深く、何事も見透かしてしまいそうな碧玉色の瞳。
 小さな身体に不釣合いな大きな杖を携えて、空を翔る少女。
 そう、彼女は、ただの少女ではなかったのだった。



第1話 月が見守る出会い



 まばゆい光を放ちながら、それは俺のほうに向かってきた。
 避けられない!
 そう思った俺は、やってくるであろう衝撃に備えて目を瞑った。
 ……、…………。
 何も……来ないな。
 恐る恐る目を開いてみると、俺の前には杖を持った女の子がいて、その杖で
謎の発光物を受け止めていた。
『リース、捕獲だ』
「うん」
 少女は短く答えると、杖を構えた。
「Cモード」
 少女が呟くと、杖の形状が変化した。
 いったいどういう原理なのかは皆目検討がつかない。俺が今見ているのは、
もしかして夢なんだろうか。
「エステル・マジカル、キャプチャー開始」
『了解』
 少女の言葉に答えるように、杖が緑色の光を発した。辺り一帯は光に包まれ、数秒もすると謎の発光物はなくなっていた。
「任務完了」
 少女の耳が、ぺたんと倒れた。今、気が付いたんだが、女の子の頭には
ネコミミのようなものがついていて、それが倒れたのだ。……ネコミミ?
 少女は呆然とそれらの光景を見ていた俺を一瞥すると、すぐに興味を
なくしたようで、謎の呪文(?)を唱えて、姿を消した。
 俺は自分の目が信じられなくなった。いったい何が起こったんだ?
 ひとり立ち尽くす俺を、月の光がやさしく照らし出していた。



「ありがとうございましたー」
 幼なじみの鷹見沢菜月の元気な声が店内に響き渡る。今、帰っていった
お客で、今日のディナータイムは終了だろう。閉店時間まではまだあるが、
今までの経験から言っても、この時間に飛び込み客が来ることはほとんどない。
 ここはトラットリア左門。俺が働いているバイト先で、菜月はここの
ひとり娘だ。お隣さんということもあって、小さい頃から見ていた俺は、
自然にここをバイト先に選んでいたし、菜月も、菜月の親父さんも当然の
ように俺を採用してくれた。
「こら、何ぼーっとしてるのよ」
 手に持ったお盆で、ぺこし、と俺の頭を殴る菜月。
「ぼーっとなんてしてないさ」
 壁際でたたずむ俺は、来客に備えているのだ。
「幼なじみの目を甘く見ないでよね。達哉のことなら大抵はお見通し
なんだから」
 と言って、パチリとウインクする菜月。
 さすがに、菜月の目はごまかせないか。
 そう、俺、朝霧達哉は、ゆうべの不思議な出来事のことを考えていた。
 あれは決して夢なんかじゃない、とは思うのだが、根拠も証拠もなく、
信じられるのは自分のみ。誰かに話したって、信じてもらえないのが関の山だ。
 事実、今朝になってから妹の麻衣、従姉のさやか姉さん、それに
ホームステイでうちに来ている月のお姫様のフィーナに、御付のメイドの
ミアの四人に話してみたのだが、四人四様の表情で苦笑される有様だ。
「ちょっと考え事してるだけだよ」
 だから、俺は菜月に対して本当のことは言わなかった。もし、菜月にまで
笑われたら、おもしろくないし。
「……そっか。ま、何かあったら相談に乗るから、いつでも言ってね♪」
 俺の顔をじーっと見つめていた菜月は、にっこり笑うとバックヤードに
戻っていった。
 しつこく聞いてこないところは、さすが幼なじみ。
 俺は心の中で菜月に感謝すると、クローズの作業を開始した。
 店はちょうど、閉店の時間になっていた。



 夕飯を食べた後、俺は昨日と同じく散歩に出ることにした。
 麻衣には心配されたが、確かめたい気持ちのほうが強かったのだ。
 確かめる、何を?
 考えても答えは出なかった。なら、この目で確認するしかないじゃないか。
 夜の町を俺はイタリアンズを連れて歩く。イタリアンズというのは、
うちで飼っている3匹の犬だ。カルボナーラ、ペペロンチーノ、
アラビアータという名前なので、まとめてイタリアンズと呼んでいる。
ちなみに、拾ってきたのは俺だが名付け親は菜月だ。
 イタリアンズがいれば、何かあれば察知してくれるはず。
「頼りにしてるぞ」
「くぉん?」
 アラビの頭を撫でると、きょとんとした表情をしていた。



 物見の丘公園に着いたので、俺はイタリアンズをリードから解き放った。
��匹とも元気に走り回っている。
 ここは普段から人が来るような場所ではなかったが、最近は月との交流も
進んできたこともあり、徐々に見学に訪れる人が増えている。
 とはいえ、夜はまだ以前のように人影がなく、おかげで俺は気兼ねなく
イタリアンズを遊ばせてやることができる。
 俺は草の上に寝転がり、モニュメントを見つめた。まあるい月が映りこみ、
きらきらと輝いている。
 きれいだなとぼんやり見ていると、モニュメントに映った月がぼやけた
ような気がした。
 次の瞬間、どこからともなく飛来した光る何かが、俺めがけて向かってきた。
「うわっ?」
 とっさに身体を捻って、なんとかかわす。
 もしかして、昨日と同じやつか?
 と思う間もなくそれはUターンして、まばゆい光を放ちながら俺のほうに
向かってきた。



 その時。
 ふいに目の前にひとりの少女が現れた。
「フィアッカ、起動」
『了解だ。リースリット』
 少女の胸のペンダントが碧玉色の光を放ちながら、徐々に形状を変えていく。
 杖になったそれを掴んだ少女も、同じく光に包まれ、姿を変えた。
 きらきらと月の光を浴びて輝く、流れるような金色の髪。
 どこまでも深く、何事も見透かしてしまいそうな碧玉色の瞳。
 頭の上で可愛く動くネコミミ。
 大きな杖を構えて、かすかに浮遊している。
 俺の目の前にいるのは、そう、正に、魔法少女だったのだ。






 to be continued…















 次回予告。



「みなさん、はじめまして。エステル・フリージアと申します。
本編での出番はまだありませんが、次回予告の役目を承りましたので、
ここで初登場となりました。よろしくお願いします。
 謎の少女リースと出会った達哉。謎の光の正体は? そして、リースの
正体は? 
 知りたい人は、次回も見てくださいね。
 次回、魔法少女リースリット・ノエル、第2話。
『魔法のような奇跡』。
 次回も、エステルマジカルがんばります!」。



0 件のコメント:

コメントを投稿