「壁に耳あり、障子に目あり、ってことわざ、あるよね。
俺は床に耳あり、天井に目あり、でもいいと思うんだけど、
支倉君はどうだい?」
夏休みのとある一日の昼下がり。
セミの声をBGMに生徒会の仕事をこなしていた孝平に、伊織が
話しかけてきた。
「そうですね……。俺はどっちでもいいです」
書類に目を通しながら、答える孝平。
「釣れないなあ、支倉君は。じゃあ、瑛里華はどう思う?」
「釣る気なの? 私もどっちだっていいわよ。っていうか
ちゃんと仕事しなさいよね」
あきれ顔で適当に返事をする瑛里華。
「もちろん、ちゃんと仕事はやっているさ。見なよ、この俺が
片付けた書類の山を」
伊織の机の上には、処理済の書類が山になっていた。
「わぁ、すごいです。さすがは伊織先輩ですね」
白が感心し、
「いつもやっていれば、そもそも山になることはないのだが」
と征一郎が言った。
「まあ、そう言うなよ、征。ところで、未解決の問題があるんだ。
それで、支倉君に意見を聞きたかったんだよ」
「俺に、ですか?」
孝平が顔をあげて伊織を見る。
「実はね、とある
階下から奇妙な声が聞こえて来るそうだ」
声をひそめて話し出す伊織。
「階下から奇妙な声……ですか」
首を傾げながら呟く孝平。
「ああ。しんじゃう~、とか、おかしくなっちゃう~とか言ってる
らしい。何か、心当たりはないかい?」
これは、もしや。……聞こえていたのでは。
ふと、瑛里華のほうを見ると、顔を真っ赤にして、ぷるぷると
震えていた。
孝平と瑛里華は二人同時に
「「すみませんでした。以後、気をつけます」」
と、頭を下げた。
「そうしてくれると、俺としても助かるよ。ところで、二人とも。
床に耳あり、天井に目あり、ってことわざは、どう思う?」
にやにやと笑いながら、伊織は言った。
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