2009/02/19

(ぷちSS)「シスター & シスター」(FORTUNE ARTERIAL)(東儀 白)



「シスター、こちらの作業は終わりました」
 礼拝堂の外での作業を終えた東儀白が、シスター天池に報告する。
「ありがとう、東儀さん。私のほうも……よし、これで終わりですね。それでは、お茶の
時間にしましょうか。外は寒かったのでしょう、さあストーブのそばに」
「はい」



 ストーブの上にかけておいたやかんからは、シューシューと音が出ている。
 やかんのお湯を急須に注いでから、白は慣れた手つきで茶器を用意する。
「いつもありがとう、東儀さん」
「いえ、わたしなら平気です。生徒会でもいつもやっていることですから。それに、わた
しに出来る、数少ないお仕事のひとつですし」
 頃合を見て、白は急須からお茶を湯のみにそそぐ。こぽこぽという音と同時に、湯気が
ゆっくりと立ち上る。
「どうぞ」
「ありがとう。……私は、そんなことはないと思いますよ」
 何のことかと白は小首を傾げるが、すぐに気づいた。シスターが先ほどの自分の言葉に
対して言ってくれていることに。
「東儀さんは、本格的な仕事ではなくても、様々な仕事を経験してきている筈です。それ
は、単なる雑用なのかもしれませんが、その経験は決して無駄なものではありません」
 天池は、ゆっくりと湯のみを口へ運んだ。
「……その経験は、いつかきっと貴女の役に立つ日が来る。だから、自信を持っていいん
ですよ。……うん、今日のお茶もおいしいですね」
 天池はやさしく微笑んだ。
「……どうもありがとうございます。あの、シスター天池は……何か物事をはじめようと
いう時に、不安に思ったりすることはあるのでしょうか」
 手に持ったまま、湯のみをじっと見つめながら、白は小さな声で問いかける。
「ありません……と言えればよいのですが、私も人の子です。時には悩んだり、迷ったり、
考えることはあります」
 天池は言葉を止めて、ゆっくりとお茶を飲む。あたたかいものが喉を伝って、身体全体
に行き渡るような感覚がある。
「ですが、迷うことは決して悪いことではありません。大事なのは、しっかりと考えるこ
と。自分だけでなく、他の人の意見を参考にするのもいいでしょう。答えはひとつだけ、
ということもありますが、そこに辿りつく道すじは人それぞれ。たくさんあるのですから」
 二人がお茶を飲む音が礼拝堂の中に響く。
 夕焼けの時間から、夜の闇の時間へと変わって行く。
「ごちそうさまでした。それでは、そろそろ出ましょうか。あまり遅くなって、貴女のお
兄さんが迎えに来るかもしれませんし」
 からかうように言う天池に、白は真面目に答える。
「多分、兄さまは来ません。……そういう時は、支倉先輩が来てくださいますから……」
「まあ。……うふふ、羨ましいですね」



 電気を消し、扉の施錠をすると、周りはすっかり夜の気配に包まれていた。
「シスター、今日も一日、どうもありがとうございました」
 白は深々と頭を下げた。
「東儀さんも、ご苦労様でした。明日もよろしくお願いしますね」
 顔を上げた白は、
「はい」
 と、にこやかに微笑んだ。






 おわり



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