2009/07/26

(ぷちSS)「7日目 雷雨でライブ?」(舞阪 美咲)



 さわやかな日曜、ということを歌っている歌もあるけど、今日さわやかだったのは午前
中だけだった。
 俺と美咲、それから弘明とグッさんの4人で駅前で待ち合わせて合流したところで、突
然雨が降ってきた。
「うわ、いきなり降ってきたねえ~」
「そうだなあ。あ、グッさん、もう少しこっちに来ないと濡れちゃうよ」
「……え? あっ、ありがとう、雄一君。でも、弘明君が……」
 グッさんが指差す先には、天に向かって祈りをささげている弘明の姿があった。あいつ
は何をやっているんだ?
「おーい! 早くこっち来いよ、弘明」
 弘明は俺の声が聞こえたのか、ようやくこっちにやってきた。短時間とは言え、ものす
ごい雨だったので、早くも服には雨がしみている。
「いやあ、すまんすまん。早く雨がやんでくれるように祈ってみたんだが」
 それは逆効果だったようで、ざーという音から、どじゃーという激しい音に雨は変化し
ていた。
「こりゃしばらくは無理だろうな。ちょうど昼飯時だし、どっか入ろうぜ」
 弘明の提案に俺たちは乗ることにする。しかし、こいつこんなに濡れてて平気なのか。
「はい、弘明君。タオル使って?」
「お、サンキュー、グッさん。助かるよ。しかし、これはもはや着替えたほうがいいかも
しれないな」
 タオルを受け取って弘明はあちこち拭きながら、そう言う。
「それじゃあ、あそこに行こうよ♪」
 それまで黙っていた美咲が指差した先には、キラキラと輝くマイクのオブジェがあった。



「ここなら他の人に迷惑もかけないし、お昼ごはんも食べられるし、時間もつぶせるし、
一石三兆だよね♪」
 それを言うなら一石三鳥だろうな。でも美咲の選んだここ、カラオケボックスは確かに
ベストチョイスかもしれない。
 ネットカフェもそうだけど、今のカラオケボックスは食事も出来て、大人数でパーティ
ーもできるぐらいなのだ。
「それじゃ、俺と弘明はちょっと服を買ってくるよ。美咲とグッさんは何か料理を頼んで
おいてくれるかな」
「オッケー。早く帰ってきてね☆ ほら、香奈ちゃんも」
「う、うん。は、早く帰ってきてね。弘明君、雄一君」
「ああ。ちょっと行って来るよ!」
 グッさんも弘明もノリノリだな。まあ、こういう時は水を差さないほうがいいか。
 手をひらひらと振る美咲とグッさんを残して、俺と弘明は外に出た。



 矢口香奈(やぐち かな)。弘明と同じく、俺と美咲のクラスメイトだ。おっとりした
性格で美咲とは対極な感じだが、意外にも気があったらしい。
 最初はおとなしいだけだと思っていたが、徐々に美咲の影響を受けたのか、言いたいこ
とがしっかり言えるようになってきた。
 一歩引いたところから全体の流れを見ているので、俺たちが気づかないことを指摘して
くれることもある。
 ちなみに『グッさん』とは彼女のニックネームで、誰が言い出したのかはわからないが、
いつの間にか定着していた。



 適当な店に入って、店員さんオススメのTシャツを買った弘明は、いい買い物をしたと
満足していた。いや、その雷様のデザインはどうかと思うが、本人が納得しているのなら
何も言うまい。
 俺たちがボックスに戻ると、テーブルの上にはあたたかい料理が並んでおり、美咲がマ
イクを二つ握って熱唱していて、その隣ではグッさんが楽しそうに手拍子していた。
 帰ってきた俺たちに気づいた美咲が、ポニーテールを嬉しげに揺らした。



「あ、お帰りなさ~い。ごはんにする? それとも歌にする? それとも」



「ごはんにしよう」
「……言わせてくれてもいいじゃない」
 ぶつぶつと言う美咲をスルーしつつ、俺たちはそれぞれ食事を始めるのだった。
「う~、いいもん。わたしは歌っちゃうんだもん。わたしの歌を聞けー♪」
 それから俺たちが食べ終えるまでは、美咲のひとりライブ状態は続くのだった。



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