2009/07/30

(ぷちSS)「11日目 おやすみタイムはすいみん時間」(舞阪 美咲)



 夏休みも十日を過ぎて、いよいよ夏も本腰を入れてきた。具体的には、晴れの日が多く
なってきており、セミの数も増えているんじゃないかという感じの合唱が、エンドレスで
聞こえている。
 この夏一番のいい天気だが、意外にも風があって過ごしやすい。
 午前中の練習を終えた俺と美咲は、昼飯を食べるために体育館裏の日陰ベンチにやって
きた。
「今日はね、お姉ちゃんがお弁当作ってくれたんだ~。はい、これ雄一の分ね」
「サンキュー。麻美さんにもお礼を言っておいてくれ」
「だめだよ、雄一。そういうのはちゃんと本人に言わないとね。お姉ちゃんも、わたしが
伝えるよりも雄一に直接言ってもらうほうが嬉しいと思うの」
 確かにその通りだった。親しき仲にも礼儀あり、とも言うし、帰りに麻美さんに会って
いこう。
「わかった、そうするよ。んじゃ、いただきます」
「いただきま~す」
 お弁当はシンプルなもので、たまごやきにひとくちハンバーグ、ポテトサラダにプチト
マトと、どこにでもあるようなおかずである。
「おいしいね、雄一」
「ああ、麻美さんの弁当はいつも美味しいな」
 でも、美味いのである。出来たてでもないし、特選素材でもない、はたまた麻美さんが
調理師免許を取得しているわけでもないのだが、美味しいのだ。
『料理は愛情』と言うが、それが具現化しているような魔法のお弁当なのだった。



 水筒からこぽこぽとお茶を注いで、美咲の前に置いてやる。
「あ、ありがと~。やっぱり夏は麦茶だよね♪」
 キンキンに冷えた冷たいお茶も捨てがたいが、お腹を壊すといけないのでほどほどに冷
たくしたお茶は夏の必須アイテムだ。
「麦茶を飲んでると、夏っていう気分だよなあ」
 食後のまったりタイム。木陰でのんびりできるのは最高のぜいたくかもしれない。
 見上げた空には、もくもくと大きな入道雲。堅苦しく言うと積乱雲なんだけど、俺たち
にはやっぱり入道雲が一番だ。
「うわあ、すっごいくもだねえ。これはしっかり見ておかないともったいないよね♪」
 美咲はどこかからレジャーシートを持ってくると、芝生の上に敷いて横になった。
「ほらほら、雄一も」
 隣をぺしぺしと叩いて美咲が催促する。
「わかったよ」
 俺は美咲の隣で横になると、木陰の間から空を見上げた。
 上空は風が強いのか、雲がすごい勢いで流れていく。まるで、ビデオ撮影の早回しを見
ているみたいだ。
「日食みたいな何年に一度のイベントもすごいけど、今日の雲も十分すごいよな」
「そうだね~。……ふああ。なんだか眠くなってきちゃった」
「ちょっとぐらいならいいんじゃないか。ほら、俺が起こしてやるからさ」



「きちんと起こしてくれないとダメだよ。約束だからね?」



 そう言って目を瞑ると、美咲はすぐに寝息を立て始めた。この寝つきのよさはすごいな。
つか、こんな屋外でも平気で寝られるのかな。
 美咲の顔を見ていたら、俺もだんだん眠くなってきた。
 ま、ちょっとぐらいならいいよな……。



「きちんと起こしてって言ったじゃない!」
「起こしただろ。……ただ、ちょっとだけ遅くなっただけだ」
 その日の帰り道。
 ちゃんと起こしてやったのに、俺に文句を言い続ける美咲をなだめながら、帰る俺たち
なのだった。
 さすがに、美咲の顔を見ていたら起こせなかったとは、口が裂けても言えない。



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