2009/08/16

「天罰祭後」(夜明け前より瑠璃色な)(エステル・フリージア)



 いよいよ次で最後ですね。
 二日間に渡って行われたこのお祭りも、ようやく終焉を迎える。
 懺悔に来られる人というのは、普段はそれほど多くはないのに、どうしてここにはこん
なにもたくさんの方がいらっしゃるのでしょう。
 まったく地球の方は……と最初は思っていましたが、よく見ると時々見覚えのある方た
ちまでいたような気がします。もしかして、月人居住区からわざわざ来てくださっている
のでしょうか。
 それなら、礼拝堂のほうに来てくれればよいのに、と思ってしまう。
 暑さと疲れで少しぼーっとしていたのか、目の前の方が小声で「お願いします」と言っ
たのが聞こえて、私は反射的に手を動かした。



「天罰!」



 ピコン☆ という音よりはバシッ! という感じだったが、痛みよりも清々しさが体に
残った。
「ありがとうございました。エステルさん」
「あ……、達哉。す、すみません、少し強く叩きすぎてしまいました」
 エステルさんは申し訳なさそうに目をそらす。
「平気ですよ。それよりも、最後の挨拶をお願いします」
「わかりました」
 エステルさんは姿勢を正すと、その場にいる人たちに向けて話し始めた。



 せっかくのお祭りなので、俺もエステルさんに叩いてもらうことにした。身内というか
関係者のようなものだから遠慮するところなのかもしれないが。
 エステルさんの話が終わり頭を下げると、自然に周りにいた人々から拍手が沸き起こっ
た。
 エステルさんはびっくりしていたが、うれしそうに微笑むと何度も頭を下げていた。



 やがて、拍手が終わってみんなが帰っていくと、そこには満足そうに笑みを浮かべるエ
ステルさんがいた。
「お疲れ様です、エステルさん」
「いえ、達哉もありがとうございました。私に付き合うことはなかったのに、ここまで一
緒に来てくれました」
 祭の会場までは少し遠かったし、教団の人が車を用意してくれるとも言ってくれたのだ
けど、俺はあえて一般の人と同じく、公共の交通手段を使うことを薦めた。
 もちろん、エステルさんが慣れていない事も知っているので、案内役を務めたわけだが。
 その話をしたら、麻衣や姉さんがにやにや笑っていたけど、気にはならなかった。
「いえ、たいしたことではありませんよ。それに……」
「それに?」
 エステルさんのそばにいたかったと言うのは、さすがに恥ずかしい。
「お、俺も懺悔したかったですから」
「本当にそうですか」
「……うっ」
「もう一度、祓って差し上げましょうか♪」
 エステルさんはにっこりと右手に持っている聖なるピコピコハンマーを掲げた。
 観念した俺が頭を差し出すと、エステルさんは嬉しそうに手を振り下ろした。



「素直なのはよいことです」
 満足そうにエステルさんが俺にピコハンを渡してくる。
「えっと、これは?」
「私の煩悩も祓ってくれませんか。私だって聖職者である前に、ひとりの人間なのですよ」
「で、でも……」
 エステルさんの頭を叩くとなると、やっぱり躊躇してしまう。
「達哉が祓ってくれないと、私は煩悩の赴くままに行動してしまいます」
 エステルさんは、俺の目を見つめる。
「……どんな煩悩なのか、聞いてもいいですか」
「ダメです。……達哉に抱きしめてもらいたいなんて恥ずかしくて」
「その煩悩は、祓うわけにはいきませんね」
 俺は、やさしくエステルさんの身体を抱きしめた。



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