2009/08/11

(ぷちSS)「22日目 それは誤解だから」(舞阪 美咲)



 午前中は勉強タイムということで、夏休みの宿題を進めた。旅行だからと言っても、遊
んでばかりいられないのだ。
「しっかし、夏休みってのは休むためにあるはずなのに、どうして宿題はあるんだろう」
「それは、毎週休みの日曜日にも宿題があるのと同じなんじゃないの?」
「おお、それは一理あるな。しかし、宿題があったら休めないのはどうする、舞阪?」
「休んでから、宿題を片付けたらいいと思うな」
 という弘明と美咲の会話をBGMに、俺は英語の穴埋め問題を埋めていた。
 現在形を過去形にするという単純なものだが、単語によってはスペルがまるで違うのが
めんどうなところだ。
「えーっと英語の辞書は……って、そんな嵩張る物持って来てないぞ」
「はい、雄一君」
 グッさんがすかさず出してくれたのは、まさしく英語の辞書。
「ありがと。でも、よく持ってきてたね?」
「私もよく使うから。英語はちょっと苦手だから、辞書は必需品なの」
 グッさんがちょっと苦手なら、俺はどれぐらい苦手になるんだろう。
「それじゃ、使わせてもらうよ」
「どうぞ~」
 こうやって見ると、辞書の使い方もひとそれぞれなんだなあということがわかる。
 俺なんかは必要なページを折り曲げて目印をつけておくので、すぐにページがぐしゃぐ
しゃになってしまうんだが、グッさんは付箋を貼るようだ。何種類も色を使い分けて、と
てもカラフルで見やすい。
「こういう使い方もあるんだな」
「何のこと?」
 グッさんが首を傾げる。
「辞書の使い方。美咲なんかは、マーカーペンを大量に使い分けるし、グッさんは付箋だ。
俺は折り曲げるだけで、弘明なんて何もやってない。人それぞれだけど、おもしろいな」
「そうだね。でも、自分のやりやすい方法でいいんじゃないかな。私も最初は一種類の付
箋しか使ってなかったけど、美咲ちゃんのやり方を見て、色分けするのもいいかなって思っ
たのがきっかけだから」
 ふむ、そうなると美咲は誰の影響でマーカーペンを使うようになったんだろうな。
 そんなことを思いつつ、英語のテキストは埋まっていった。



 お昼ごはんを食べてのんびりしていると、明子ちゃんに手招きされた。近づいてみると、
いきなり頭を下げられた。
「ごめんなさい!」
 ……?
「いきなりどうしたの?」
「ヒロに怒られたの、美咲ちゃんのこと。だから、謝っておこうと思って」
 ああ、美咲のアレのことか。
「いいって、別に。それに俺は何かされたわけじゃないし、美咲とグッさんも平気みたい
だから、気にしなくていいと思うよ」
 ふたりが気にしてるなら別だが、そうじゃないならこの件はさっぱり解決したい。



「でも、彼女の胸を揉まれて、あんまりいい気はしないでしょ?」



 ……なに?
「誰が、誰の彼女だって?」
「美咲ちゃんが雄一くんの」
 ……どうしてそういうことになっているんだ?
「違うの? だって、あんなに仲良さそうだから、てっきりそうだと思って。幼なじみ同
士って、ちょっと憧れるなあって思ってたんだけど」
 そりゃ、憧れるのは自由だけどさ。
「せっかくの憧れを壊して悪いけど、それは誤解だよ。俺たちは単なるお隣さん同士」
「……ふふ、それじゃあそういうことにしておくね♪」
 まるで信じられていなかった。……別にいいけど。
「昼からはみんなで出かけるんでしょ。私も一緒にいいかな?」
「ああ、もちろん。こっちから誘うつもりだったんだ。いろいろ案内してもらえると嬉し
い」
「それに関しては任せてよ☆」
 明子ちゃんは誇らしげに控えめな胸を叩いて、そう言った。



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