2009/08/13

(ぷちSS)「23日目 山に登ろう」(舞阪 美咲)



「っくしゅん!」
 可愛らしいくしゃみをしたのはグッさんだった。
「ほい、タオル」
「あ、ありがとう雄一君」
「あったかいお茶もあるよ、香奈ちゃん♪」
「美咲ちゃん、ずいぶん用意がいいね。夏だから冷たいお茶だとばっかり思ってたよ」
「えっへへ。実は、アキちゃんが作ってくれてたりして」
 うーむ、もしかしてこうなることを予想していたんだろうか。
 その時、がちゃりと扉を開けて入ってきたのは、全身カッパに身を包んだ弘明だった。
「どうだった?」
「いやー、さっぱりだな。しばらくはここで休憩したほうがいいだろ」
 俺たち四人は、突然降り出した雨のせいで、途中にある小屋へ避難していた。



 先に進むべきか、それとも戻るべきか。その判断をするために、一旦小屋から出て外の
様子を弘明に見に行ってもらっていたんだけど、どうやら第三の選択をすることになりそ
うだ。
「雨がやんでくれりゃいいんだけど、ここまで勢いが強いと危ない。幸い、天気予報では
長引きそうにないみたいだし、しばらくは雨宿りだな」
 地元ではないが、このあたりの地理に一番詳しいのは弘明だ。その弘明が言うんだから、
間違いない。
「うう、こんなことなら着替えを用意してくるんだったな」
 グッさんは、少し寒そうにしている。
「大丈夫だよ、香奈ちゃん。こういう時は、人肌であたたまるのがいいんだって♪」
 美咲は香奈ちゃんをぎゅうっと抱きしめた。
「だ、ダメだよ。美咲ちゃんまで濡れちゃう」
「平気だよ。……それとも、雄一に代わったほうがいいかな?」
「そそそ、そんなことできるわけないでしょ?」
「じゃあ、弘明くんは?」
「絶対にダメだってば!」
 ……弘明、別にお前が拒絶されてるわけじゃないんだから、そんなに肩を落とすな。
 グッさんの思いも寄らないひとことでダメージを受けた弘明は、すみっこでうずくまっ
てしまった。
「ちょ、ちょっと弘明君、なんですみっこに行っちゃうの?」
 グッさんの声にも反応がない。
「グッさん、しばらくほうっておいてやってくれ。それがあいつのためだ」
「……そうなのかなあ」
 まあ、雨がやむ頃には元気になってるだろ。



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