2009/08/17

(ぷちSS)「29日目 後半戦スタート!」(舞阪 美咲)



 波乱万丈だった一週間もあっという間に過ぎて、通常の日常が戻ってきた。とは言って
も、夏休みはまだまだ後半戦が始まったばかりで、暑い夏はいつ終わるのか予想すら出来
ないのだけど。
「おっはよう、雄一! さあ、今日も部活がんばろうね♪」
「おう、もちろんだ」
 美咲は相変わらず元気だ。周りにも元気を振りまいてくれる美咲は、俺たちの部活にとっ
て欠かせない存在だ。まあ、本人にはナイショだけどな。
「どうしたの、雄一。可愛いわたしの顔に何かついてるかな?」
「……ごはんつぶ」
「ええっ? ……ってそんなわけないでしょ。今日の朝は食パンだったんだもん」
「でも、昨日の夜はごはんだったろ」
「ちょ、ちょっと待っててっ。すぐに戻ってくるから!」
 大慌てで家に戻る美咲を見送って、俺は歩き出した。だって、そうしないと戻ってきた
美咲に怒られちまうからな。
 冗談でもいちいち反応してくれるんだよな、美咲は。



「ようし、それじゃ今日の練習はこれまで!」
「ありがとうございましたー!!」
 平田先生の号令で、今日の練習は終了となった。
 お盆休みが明けてからの最初の練習日。ようやくバスケ部顧問の平田先生が指導に入っ
てくれるようになった。
 初心者集団の俺たちに教えるのはつまらないのかと思っていたが、先生は意外にも熱心
に指導してくれた。何せ、普段の先生はとにかくやる気が感じられず、グラウンドでの体
育の授業ならともかく、教室の講義になるとひたすら手を抜きまくるのだ。
 そんな先生だから、専門外の部活(先生はソフトボール出身らしい)はどうなんだろう
と不安だったのだが、それは取り越し苦労だったようだ。
「おーい、笹塚ー」
 平田先生が呼んでいるので、俺は先生の下に駆け寄った。
「なんですか?」
「実はな、夏休みの最後に練習試合を組んだんだ。まだお前たちには早いかもしれないが、
試合経験を積むのは悪いことじゃないしな。どうだ?」
 と言われても、俺たちに断る理由はない。
「そうですね。どこまで通用するかわかりませんけど、やれることをやるだけですよ」
「よし。それじゃあ相手先に正式に連絡しておこう。明日からは試合向けの練習も始める
から、気合を入れろよ?」
「はい!」
 先生に背中を強く叩かれたが、痛みを感じるよりも注入された気合が熱かった。



「へ~、試合やるんだ?」
 その日の帰り道。俺は先生から聞いたことを美咲に話した。
「これは、美人マネージャーさんとしてももっともっとがんばらないとね!」
 美人はどうでもいいけどな。
「ぶっ倒れるまでがんばってもいいよ。美咲ちゃんのマッサージで雄一を元気いっぱいに
してあげるんだから♪」
「いや、それは遠慮しておきたい」
 だって、なあ。



「え~。平田先生にも言われてるんだよ。『笹塚はマッサージしてやると元気になる』っ
て。雄一、平田先生にマッサージしてもらったことあるんでしょ?」



 ……あの、セクハラ教師め。
 確かに、一度やってもらったことはある。マッサージの腕前は確かだったが、必要以上
に胸を押し付けてきたり、耳元に息を吹きかけてくるのだ。
 健全な男子たるもの、それで元気にならないわけがなかった。
「こほん。マッサージはともかく、試合に負けないようにがんばらないとな」
 俺が言うと、美咲は首を振った。トレードマークのポニーテールが揺れる。



「あのね、試合に勝てるようにがんばるんだよ、雄一☆」
 美咲は笑顔全開でブイサインをしたのだった。



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