2009/08/19

(ぷちSS)「31日目 忘れちゃいけない宿題と約束」(舞阪 美咲)



 朝からセミが鳴いているのにもずいぶんと飽きてきたが、そんな人様の都合はセミには
まったく関係がなく、つまりは今日も元気よくセミは鳴いていた。
「あいつら、少しぐらい静かにしてくれないかなあ」
「そしたら宿題が捗るのに?」
「雄一の宿題が捗らない理由はそれだけじゃないだろうに」
「え、えと、雄一君がんばって?」
 いつもの図書館、いつもの場所で、俺・美咲・弘明・グッさんはいつものように宿題の
山と格闘していた。
 いや、山と格闘しているのは俺だけだが。
「おかしい。みんなと同じように宿題をやっているのに」
「雄一、時々居眠り」
「雄一、のち熟睡」
「雄一君、ところにより爆酔」
 酔ってないからね? てか、きみらの息はぴったりだね!
「あはは、さすが雄一君。ツッコミは冴え渡ってるね」
 ぱちぱちと手を叩くグッさん。むしろ、グッさんのボケこそ冴え渡っていると思うが。
 グッさんは普段はすっぴん(?)なのだが、勉強する時は眼鏡っ娘モードへと変身する。
 それゆえ、通常の1.5倍ぐらい鋭くなるのだ。
「ほらほら、バカなこと考えてないで手を動かさないと。いつまで経っても終わらないよ?」
「ちゃんと動かしてるけど」
「もっと早く、素早く、残像が出来るぐらいに!」
 宿題ごときで人間を超越してしまいそうだ。
「いいのかなー。きちんとやらないと美咲ちゃんとの約束が守れなくなっちゃうよ?」
 美咲はにやにやと笑いながらそう言った。……はい?
「お、舞阪との約束か。それは守らないとな、雄一」
「そうだよ、雄一君。美咲ちゃんを泣かせちゃダメなんだから」
 ちょ、ちょっと待て。そんな約束、記憶にございません。
「お前は何世紀前の政治家だ」
「雄一君をそんな子に育てた覚えはありません!」
 弘明もグッさんもノリノリだ。
「うぐぐ、なぜか八方ふさがりだ……」
「違うよ、三方しか塞いでないよ」
 美咲、弘明、グッさんで三方か。
「それじゃ、空いてるところから抜けさせてもらっていいか?」
「いいよ。落とし穴に落ちてもよければね♪」
「ワナに誘い込むための作戦? 美咲のくせにこしゃくな」
「違うよ、これは香奈ちゃんの作戦だもん」
「小癪でごめんなさい、雄一君」
「あ、いや、グッさんは悪くないよ」
「悪いのは雄一の頭だもんな。『小癪』ぐらい漢字で書けるようにしておけよ。将来困る
ぜ?」
 どんな未来が俺に待ち受けているのやら。
「それはもう、美咲ちゃんとの黒薔薇色の生活だよね☆」
 美咲がえへんと胸を張った。
 めちゃくちゃ不吉なんだけど、色が。
「それじゃあ、鴉色とか」
「一緒だよ!」
 そんなこんなで、空が夕焼け色に染まるまで図書館に入り浸っていたのに、宿題はあま
り進展しなかった。
 夏休みって、あと何日あるんだろうなあ。



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