2009/08/20

(ぷちSS)「32日目 心を入れ替えて」(舞阪 美咲)



 八月も半ばを過ぎて、ようやく暑くなってきた気がする。
「夏だもんな。これぐらいの暑さなら平気だ」
 俺は、さっさと支度すると、美咲の家に行った。
「あれ、雄一? 今日は早いね」
「明日からは、今日も早いね、だな」
「うわ、自信たっぷり。ふふ、楽しみだね~」
「おう、楽しみにしててくれ。それじゃ行くか」
「あいあいさー」
 美咲と並んで歩く。今日の美咲は、いつもよりも嬉しそうで、ポニーテールも楽しそう
に踊っている。
「美咲、何かいいことでもあったのか?」
「え、どうして」
「いや、なんとなくそう思っただけなんだが」
 美咲はにっこりと微笑むと、ナイショだよ~とウインクした。



「ようし、今日はこれまで! それじゃ後はきちんと片付けて帰るように」
「ありがとうございました~」
 午前中の部活が終わって、俺たちは体育館の床に寝転がった。
 疲れはあるけど、とても心地よい。平田先生の指導が適切なこともあるが、すごく充実
感がある。
「笹塚」
 先生に呼ばれたので、俺は起き上がった。
「なんですか、先生」
「今日は、何かいいことでもあったのか」
「え、どうしてですか」
「いや、なんとなくな」
 平田先生の落ちているボールを拾うと、片手で器用にスピンさせている。
「まあ、なんでもいいけどな。……そうだ、マッサージでもしてやろうか?」
「いえ、大丈夫です。今日は調子がいいんで」
「……そうか。それじゃあまた明日」
 先生は嬉しそうに笑うと、ボールをカゴにダイレクトシュートした。



「弘明。この問題なんだけど、この公式を使っても答えが出ないんだけど」
「ん? えーと、ああ、こりゃ計算マチガイだな。ほら、ここのXが途中からYに変わって
いるぞ」
「お、そうか。サンキュー」
 消しゴムで盛大に消してから、丁寧に書き直す。……よしっ、できた。
 さてと、次は英語でもやるかな。
「はい、雄一君」
 グッさんが英語の辞書を差し出してくれた。
「あ、今日は持ってきてるんだ。ありがと」
「ううん。それならいいの。……雄一君、今日は何かいいことでもあったの?」
「え?」
「ええと、なんだか嬉しそうだなって思って。私の気のせいかな」
「そうだなあ、自分でもよくわからないけど、気分はすごくいいかな。体調もいいしね」
「そうなんだ。よかったね」
「ありがと、グッさん」
 グッさんにお礼を言うと、嬉しそうに笑ってくれた。



 帰り道。美咲はうきうきとスキップしている。
「今日はごきげんだな」
「うん☆ 毎日こんな気持ちで過ごせるといいよね」
「ああ。そうだな」
 美咲が嬉しいと、俺も嬉しくなってくる。
 今日も暑いけど、こんなに嬉しいなら暑さなんてへっちゃらだな。
 揺れる美咲のポニーテールを見ながら、俺はそんなことを考えていた。



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