2009/08/22

(ぷちSS)「34日目 朝一番の贈りもの」(舞阪 美咲)



「雄一~、起きてる~?」
「んあ、なんだ美咲か? 今何時だよ……」
「5時5分」
「早いよっ!」
 思わず目が覚めた。
「し~っ。静かにしないと近所迷惑でしょ」
 俺の家はお前にとって近所じゃないのでしょうか。
「雄一は家族も同然だもん♪」
 ファーストフードのバイトもびっくりの笑顔だった。



「しかし、なんでまたこんな時間に来たんだ。ひとりでトイレに行けないとか」
「雄一はデリカシーがないよね。香奈ちゃんには言わないほうがいいよ?」
 一応ボケてみただけなんだが……、まあ朝一なので不発だったということにしておこう。
「というか、なんでお前は俺の部屋に入れているんだ?」
「鍵かかってなかったけど」
 元々俺の部屋には鍵がついていない。女の子ならともかく、男の子どもの部屋ってのは
鍵なんてつけないものだと思う。そのせいで、いろいろな場面で進入されてきたわけだが、
……なんだか鍵の必要性を今更ながら感じてきたな。まあ、それは置いておこう。
「家の鍵はかかってただろ」
 昼間ならともかく、夜間は危険なので鍵はかけているはずだ。
「わたし、鍵持ってるもん」
「なにい!」
「雄一、声が大きいって!」
 悪いとは思ったが、そりゃ驚くだろ。
「お隣さん同士なんだから、それぐらい驚くことじゃないでしょ。笹塚さんちの鍵がうち
にあるように、舞阪さんちの鍵もここにあるはずだよ」
 確かに、家族ぐるみのつきあいというやつで、笹塚家と舞阪家は親も子どもも仲良しな
わけだが、まさか鍵の交換までしている間柄だったとは……。
 道理で、美咲や麻美さんがいつのまにかうちにいたりするわけだ。
「えへへ。これで、いつでも雄一は夜這いできるね♪」
 するか!



「んで、話を戻すけど、こんなに早く来た理由はなんだ? 俺の寝顔が見たかったとかい
う理由だったりしたら、さすがに俺もキレマスヨ」
 冗談ではあるが、納得できる説明をしてほしいものだ。



「朝の散歩をね、雄一と一緒にしたいな~って思ったから☆」



 というわけで、俺と美咲は早朝散歩に繰り出した。起きる前だったらパスするところだ
が、すっかり目が覚めたのでしょうがなく、だ。
「う~ん。朝の空気は気持ちいいね~」
 胸いっぱいに朝一番の空気を吸い込んでいる美咲。確かに、朝の空気ってのはまだひん
やりしているし、気持ちいいよな。
「それに人の少ない町を歩くのも、新鮮な感じがしていいよね」
 まったく人通りがないってわけじゃない。24時間営業のコンビニは開いているし、新
聞配達の人や、スーツの人も時々見かける。
「こんなに早くから仕事してるんだなあ」
「その分、夜は早いんじゃないかな。夜も遅くまでだったら、本当にご苦労様だね」
「ああ、まったくだ」
 俺たちが寝ている間も、がんばっている人たちがいる。だからってわけじゃないし、俺
たちはまだ仕事をしているわけでもないけど、俺たちは俺たちができることを精一杯やっ
ていければいいと思う。
「ありがとな、美咲」
「え? わたし、何もしていないよ」
「いいんだよ。なんとなくお礼を言いたくなっただけだから」
 俺は美咲の頭をやさしく撫でてやった。
「く、くすぐったいよ~」
 美咲は身体をくねらせながら、それでも嬉しそうにしていた。



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