2009/08/25

(ぷちSS)「37日目 虫の声と」(舞阪 美咲)



 朝と昼間の蝉の声にもようやく慣れてきたのだが、夕方から夜にかけて、少しずつ虫の
声が聞こえてくるようになった。
「もうすぐ秋なんだよね~。だいぶ涼しくなってきたし」
「そう……だな……」
 ゼハーゼハーと、息を荒げながらも答える俺。
「どうしたの雄一。なんだか虫の息なんだけど」
「どうしたのってな、さっきランニングから帰ってきたばっかりなんだよ……」
「うん、知ってるよ♪」
 シャクっとスイカをかじる美咲。
「どうしてお前が、俺が大切に残しておいたデザートを食べてんの……」
 美咲はにっこりとブイサインを繰り出した。
「何を隠そう、わたしはスイカが大好きなんだよ!」
 そんなことは知ってる。俺はお前のことなら大抵のことは知ってるんだよ。
「だから隠しておいたのに……」
「ふっふっふ。わたしのセンサーに反応したから、しょうがないでしょ」
 さらに一口かじる美咲。
「う~ん、この甘味がなんともいえずおいしいよね~。雄一も食べる?」
「ああ」
「はい、あ~ん♪」
 食べかけのやつじゃなくて、そっちの新しいやつを寄越せっての。ったく、しょうがな
い、めんどくさいしな。
 シャクッ。
「どうどう、おいしいでしょ♪」
 冷やされたスイカの果肉と、たっぷりの果汁が俺の口をいっぱいに満たす。
「うめえ……」
「そうでしょそうでしょ。どんどん食べようね~」
 笑顔の美咲を見ていると、なんだか細かいことはどうでもよくなってくるな。まあ、ス
イカのうまさにめんじて許してやろう。
「もうすぐ試合だから走ってたんでしょ。いい試合になるといいねっ♪」
「ああ。それにはマネージャーの力も必要だから、美咲もよろしく頼むぞ」
「はーい。それじゃあ、もうひときれ、食べてもいいかな?」
 そんなふうに言われたら、首を縦に振らないわけがなかった。



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