2009/08/27

(ぷちSS)「39日目 練習は万全」(舞阪 美咲)



 試合の日も近づき、練習にも熱が入ってきた。基本練習は二割増だが、練習時間は変わ
らない。つまり、漫然とやっていると試合に向けた練習が出来なくなってしまうので、自
然に俺たちの集中は高まるという寸法だ。
 だって、基本練習なんだぜ?
 今までいやになるほど繰り返してきた基本練習。大切なことは百も承知しているが、ど
うしても試合形式の練習がしたくなるものだ。
 平田先生もそれがわかっているのか、俺たちが何を言っても練習方針を変えようとはし
てくれなかった。
「ようし、集合! 今日の残り時間は……あと二十五分か。五分交代でオフェンス3、ディ
フェンス2のミニゲームだ。シュートを一番多く決めたやつの勝ち。いいな?」
「はい!」
「それじゃ、スタート♪」
 美咲がホイッスルを鳴らすと、俺たちは配置についた。



 二十五分後。俺たちは五人全員がしかばねのようになっていた。
「みんなお疲れ。今日の勝者は笹塚か、明日もがんばれ。それから、負けた四人はもっと
がんばれ。それじゃ、ちゃんと汗の後始末してから帰れよ~」
「先生お疲れ様でした~」
 美咲が見送って、平田先生は戻っていった。
「みんなお疲れ様~。はいタオル♪ ちゃんと拭いて帰らないと、彼女に嫌われちゃうよ」
 などと言いながらタオルを配る美咲を見ていたら、いつのまにか最後の一人になってい
た。
「えと、美咲さん。俺にもタオルを」
 そう言うと、美咲はにっこりと笑って、こう言った。



「拭いてあげる♪」



「いや、自分で拭けるから。な?」
「まあまあ。遠慮しなくてもいいから」
「そういうつもりじゃないんだけどなー」
「彼女に嫌われちゃうよ?」
「彼女なんていないし」
「そうなんだ?」
「そうだけど」
「えへへ~」
 何がおかしい。



「わたしに嫌われちゃうよ?」



 俺は両手を上げた。持っていたら、白旗を振っているところだな。
 さすがに全身拭いてもらうわけにもいかないので、Tシャツを脱いで上半身ハダカになっ
た。
「お、けっこう筋肉質になってきたかな?」
「どうだろう。自分ではよくわからないけど」
「毎日雄一のハダカを見ているわたしが言うんだから、間違いないよ♪」
「見てないだろ」
「ふふふ、雄一が知らないだけかもね~」
 鼻歌交じりに俺の身体を拭いていく美咲。ウソだろうがホントだろうが、美咲に見られ
ても減るもんじゃないから平気だけど。



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