2009/08/29
(ぷちSS)「41日目 1日前にしなくてもいいこと」(舞阪 美咲)
ガサゴソという音が、わずかに聞こえている。耳に届くか届かないかというかすかな音
なので、気にしなければいいだけの話なのだが、一度気になってしまうともうダメだった。
ゆっくりとまぶたを開くと、部屋の明るさから七時過ぎぐらいだと思った。
普段よりは遅い時間だが、今日は部活は休みだし、他の用事も特にないから問題はない。
「あ、起こしちゃったかな」
……訂正、問題はあった。
「ああ、起こされた」
隣に住んでいる、幼なじみの少女。元気が何よりの取り柄で、ポニーテールがよく似合
う女の子。舞阪美咲が、俺の部屋で何かをやっていた。
「よかったねぇ~。かわいい幼なじみに起こしてもらえるのは、男の子にとって百八つあ
る幸せのうちのひとつなんでしょ?」
どこからそんな情報を仕入れてくるんだろうか。つーか、それだと幼なじみのいない男
は最初から幸せの数が少ないことになると思うがな。
「あんまり幸せとは言えないけどな。まあ、一応お礼を言っておくか」
「いえいえ、どういたしまして♪」
「まだ言ってないし。……えーと、サンキュな。んで、美咲さんは何をやっているのでしょ
うか」
丁寧語で質問してみる。
「雄一の部屋の大そうじ☆」
いや、んな満面の笑顔で言われてもなー……。
「別に今日やらなくたっていいだろ。そもそも大掃除なんて年末にやるから大掃除になる
わけでさ。普通の日にやるのは大掃除とは言わないぞ」
「それじゃあ何て言うの?」
「……さあ?」
思いつかなかった。まー、どーでもいーしなー……。
「それよりも、俺としてはもう一眠りしたいんだけど。せっかく部活休みなんだし」
「いいよ♪ どうぞどうぞ」
ニコニコ美咲さん。その場から動こうとしない。
俺は、言外に掃除をやめてくれと言っているつもりだが、どうやら伝わっていない。
じいっと美咲を見つめてみると、向こうも微笑み返してきた。
「あのな美咲」
「あ、そういうことか。わたしとしたことが察しが悪かったね、ごめんなさい」
「あ、わかってくれたらいいんだ」
さすがは幼なじみ。アイコンタクトが通じたようだ。
「添い寝してあげればいいんだね。はい、どうぞ♪」
ぽむぽむと掛け布団を叩いて、俺を誘ってくれる美咲。
なんだろう、微妙に通じているような通じていないような……。まあいいや。
めんどうだったので、そのまま添い寝してもらった。
これは余談だが、後で部屋にやってきた麻美さんによると、俺と一緒に美咲も眠って
しまっていたらしい。
「ふたりとも、可愛い寝顔だったわよ♪」
と、麻美さんはご満悦だった。
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