2009/08/30

(ぷちSS)「42日目 ラスト・シュート」(舞阪 美咲)



 空は高く、青く澄み渡っていた。
「絶好の試合日和だね~♪」
 ほにゃりと美咲が呟く。
「ああ、いい天気だ」
 バスケットの試合は屋内なので、天候はそんなに関係ないのだが、やっぱり気分の問題
である。
「もう少し寝ててもよかったんだよ?」
 隣で美咲が言うが、それはこっちのセリフでもある。
「大切なのは、いつもどおり。だから、これでいいんだ」
「そっか。それじゃ、おはようのチューもしないとだね♪」
 えへへ、と美咲が笑う。……そんなのしたことないよな?



 学校に着くと、すでにみんな集まっていた。
「ちょ、お前ら早すぎだろ」
「笹塚たちが遅い、と言いたいが、まだ時間前だからな。確かに俺たちはみんな早すぎだ」
 珍しく中村が冗舌だった。それだけで、彼の意気込みがわかる。
「そんじゃ、軽く練習しようか。緊張して試合にならなかったら、せっかくうちまで来て
くれる相手に申し訳ないしな」
 身体を動かしていれば、強張っている身体も心もほぐれるだろう。



「お、みんな集まってるな。それじゃ会場設営だ。使うのはAコートだから、そのまわりに
椅子を並べてくれ」
「はい!!」
 それほど数が多いわけではないので、設営自体はすぐに終わった。
「笹塚」
「はい、なんですか先生」
「することがないなら、肩でも揉んでくれないか」
「……」
「こう見えても、私は着やせするタイプなんだ」
 聞いてないよ!



「なんだか試合前にぐったりだ」
「まあまあ。平田先生は胸が大きいからね。きっと肩凝りなんだよ」
 いや、あれはセクハラだろう。
「で、先生の揉み心地はどうだったの?」
 どうと言われてもな、肩だし。
「わたしよりもおっきかった?」
 知らないよ!



「お、やっと来たな。それじゃ私は挨拶してくるから、みんなは練習続けてくれ」
 平田先生が出迎えに行った。なんだか相手の先生とやけに親しげなんだが、知り合いなの
かな。
「後輩だって言ってたよ。あいつは私の妹なんだーとか」
「妹?」
 後輩で妹? そりゃ妹は後輩に違いないだろうけど。
「そうじゃなくて。先生の通ってたのはお嬢様学校で、妹みたいに可愛がってる後輩って意
味なんだよ」
「よくわからん」
 やっぱり先生はレ…だったんだろうか。ま、人の趣味をとやかく言うまい。



 いよいよ試合が始まった。最初こそ地の利がある俺たちがリードしていたが、半ばを過ぎ
ると徐々に押され始めた。
「くっ……」
 わかってはいたが、足が止まり始めた。気持ちはついていけても、身体が動かないのだ。
 オフェンスはともかく、ディフェンスはところどころ綻びを見せ始めた。
 だが、苦しいのはみんな一緒だ。



 そして、ラスト5秒。中村からのパスが、ディフェンスの隙間を通り抜けて俺に届いた。
「打て、笹塚!」
 言われるまでもない!
 反射神経が反応するように、毎日の練習で叩き込んできたシュート動作を取ると、
「雄一、いっけええええええええええ!!!!!!!」
 という美咲の声と共にシュートを放った。
 ボールはきれいな放物線を描いて、ゴールネットに吸い込まれた。



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