2009/08/07

(ぷちSS)「19日目 練習は集中して」(舞阪 美咲)



 今日の練習で、夏休み前半の部活は終了となった。部員に話を聞いてみたところ、やは
りお盆に用事があるやつが大半で、その日程も来週のほとんどの日に分散していたので、
いっその事、丸々一週間休みにすることに決めていた。
「みんなお疲れ様。それじゃ、お盆明けの月曜日にまた集合しよう。何か言いたいことが
あるやつはいるか。なけりゃこのまま解散ってことで」
「みんなお疲れさまっ。後はわたしに任せて、一週間ゆーっくり身体を休めてね!」
 美咲の声で、みんながそれぞれ帰りだした。これはいつものことなので、別にいちいち
気にしたりはしない。
 まあ、俺もキャプテンっぽいことをやってはいるが、正式なキャプテンというわけじゃ
ないし。
「さてと、それじゃわたしたちも帰ろうか」
「いや、俺はちょっと残るから。美咲は先に帰っててもいいぞ?」
「え、なんでなんで? 美咲ちゃんに隠し事なんてダメだよ」
 別に隠し事ってわけじゃないんだけど。
「ほら、来週から休みで、俺たちは旅行に行くだろ。その間は部活出来ないから、少しだ
けシュート練習していこうと思って」
「でも、雄一。いつもオーバーワークは禁止って」
「オーバーワークまではやらないよ。ちょっとした残業、サービス残業ってやつだ」
 あれ、使い方間違ってるかな。でも美咲には通じたみたいだ。
「そっか。それじゃ、わたしは部室に戻ってるね♪」
「おう」



 黙々とひとりシュート練習をこなす。反復練習は数をこなすことって言うけど、短い時
間でそれをやるためには、スピードが不可欠だ。
 ボールを取り、ゴール目掛けてシュートを打つ。文字で書くとふたつの行程しかないが、
実際にはボールを取るにはよく見て、しっかりキャッチする必要があるし、シュートを打
つにはゴールを見据えて、構えて、放り投げなければならない。
 うまくキャッチできなければ持ち直さなきゃならない。キャッチした姿勢が悪ければ、
体勢を整えなければならない。
 ムダはできるだけそぎ落として、なおかつスピードを追求できれば、初心者の俺たちで
もきっといいバスケットができるようになる。
 そう信じて、毎日、地味だけどしっかりと基礎練習をやっているのだ。



 練習のしすぎはよくないので、俺たちはオーバーワークを禁じている。やる時はやる。
休む時は休む。単純だけど、大切なことだ。
 だから、俺のサービス残業も長くても30分と決めている。どれだけたくさんシュート
が打てるかは、その日の調子と体力によるが、少しずつ増えてきているのは自分でもわかっ
ている。
 それがわかるからこそうれしくて。
 今日はついつい10分ほどオーバーしてしまった。
 これぐらいなら、いいよな。
 タオルで汗をぬぐった俺は、ボールを片付けて部室に戻った。すると、



「おそーいっ!!」



 ピコン☆
 美咲にピコハンで殴られた。
「女の子を待たせるなんて、男の子の風下にも置けないんだよ」
 それじゃあ俺はどこに行けばいいんだよ。
「えーと、わたしの家とか?」
 なぜ疑問形なんだ。
「つーか、なんでまだ残ってるんだ。先に帰ったんじゃなかったのか」
「そんなこと言ってないよ。あ、今、話をそらそうとしたでしょ」
 うっ。
「あ、目をそらした。後ろめたいことがあるからだよね。……他にオンナができたのねっ」
 いきなり修羅場だった。
「まあ、うきわはオトコの甲斐性って言うし、しかたないけど」
「うきわじゃなくて、浮気な」
「やっぱり浮気なんだ!」
「いや、美咲が間違えたから」
「わたしのせいにする気っ」
「どうすりゃいいんだよっっ」



「ちゃんと時間通りに練習終わってくれれば……それでいいよ」



 ……やれやれ、まいった。
「わかった。今度からはちゃんと守る」
「それならよろしい♪」
 ピコン☆
 なぜかまた叩かれた。
「それ、どうしたんだ?」
「さあ? 部室の掃除をしてたら、箱の中から出てきたの。ちゃんと使えるよ?」
 そういう心配じゃないんだけど、まあいいや。
「それじゃ着替えるから」
「了解。手伝えばいいんだよね?」
「いやいやいや。ひとりでできるから」
「遠慮なんていいのに」
「……アイスおごってやるから」
「わーいっ。早く出てきてね、30秒以内にっ」
 美咲は光の速さで部屋から出て行った。
 俺は負けじと、上と下の運動着を同時に脱ぎ捨てた。



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