2009/08/08

(ぷちSS)「20日目 準備から旅行ははじまって」(舞阪 美咲)



 久しぶりのオフ、というのも変だけど、部活のない日を平穏に過ごした。
 美咲に起こされて、美咲に食べさせられて、美咲に勉強を邪魔されて、美咲に昼寝を邪
魔されて、美咲と遊んで、美咲と弘明とグッさんと遊びに行って、帰ってきた。
 そんな平穏な一日だった。
 と、風呂場でのんびりしていたら、大変なことを思い出した。



 明日からの旅行の準備をしていない。



 うひゃあと全速力で頭を洗って、湯船につかって高速言語で一から百まで数えて、風呂
を出た。普段ならのんびりとリビングでうちわ片手にスポーツニュースでも見るのだが、
その時間すら惜しい。
 とりあえずパンツだけ身に着けると、バスタオルで髪をがしがし拭きながら階段を駆け
上がった。



「あら、雄くん。こんばんは♪」
「おじゃましてるよ、雄一♪」



 舞阪家の姉と妹が、俺の部屋で正座して待っていた。
「……えと、なんで?」
「新婚さんゴッコがしたかったから!」
 美咲のテンションは天井よりも高い。
「は?」
 麻美さんがにっこり笑って三つ指をつく。
「おかえりなさい、雄くん」
「いや、さっきから家にいましたが」
「お風呂にする?」
「今、あがったばかりです」
「ごはんにする?」
「それも、食べましたって」
「それじゃあ、美咲ちゃんね!」
「それは食べられません」
「そんな、美咲ちゃんじゃダメなんて!」
「それじゃあ、もしかして雄一はお姉ちゃんのことがっ」
「うがー!」



 などと、風呂上りのさっぱり感がどこかへ飛んでいきそうなやりとりを繰り広げた後で、
ようやく麻美さんが解説してくれた。



「雄くんの旅行の準備をお手伝いしようと思って♪」



 麻美さんの中では、俺はいったい何歳児の設定なんだろう、ということを考えてしまい
そうになるが、このお姉ちゃんは善意100パーセントなんだよな。何も言えない。
 俺が言えるのは、
「ありがとうございます、麻美さん」
 というひとことだけだった。



「それにしても、みんなで旅行かあ。うらやましいわね」
「お姉ちゃんは、もう予定決まってるの?」
「勉強会があるから、週の後半なら空いてるけど」
「そっかあ……、ねえ雄一。弘明くんに言ったら、お姉ちゃんも大丈夫かな?」
「いいんじゃないか? そもそも、俺たちだって部屋が空いてるから来てくれって頼まれ
たクチだし……て、もう電話してやがる」
 美咲は携帯を取り出して、弘明に電話をかけていた。
「でもいいのかしら、雄くんの邪魔にならない?」
 麻美さんが心配そうに言う。
「邪魔なんてこと、絶対にないですよ。麻美さんなら大丈夫です」
 自信を持って言うと、麻美さんは嬉しそうに笑ってくれた。
「うん、うん。ありがとう弘明くん! それじゃあ、また明日だねっ」
 大声で嬉しそうに話す美咲を見ていれば、結果がどうなったかは明白だった。



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