2009/10/04

(ぷちSS)「陽菜に秋の装いを」(FORTUNE ARTERIAL)(悠木 陽菜)



 十月になっての最初の日曜日。
 出かける予定だったので天気を心配していたが、そんな心配は杞憂だったようで、窓の
外には雲のない青空が広がっていた。
「それじゃ、早速でかけるか」
 孝平は秋用のジャケットを羽織ると、ドアを開けた。
「あ、おはよう。孝平くん」
「陽菜? どうしたんだ、こんなところで」
「……おはよう、孝平くん♪」
「おはよう、陽菜」
「えへへ」
 笑いあうふたり。
「待ち合わせは寮の前じゃなかったっけ?」
「……孝平くんに、ちょっとでも早く会いたかったから」
 陽菜は孝平のふたつの質問に、ひとつの答えを返した。



 孝平と陽菜は手をつなぎながらゆっくりと歩く。
「今日、晴れてよかったな」
「うん、そうだね。……孝平くんのおかげかな?」
「俺は何もしてないよ。ただ、てるてるぼうずにお願いしただけさ」
「それじゃ、てるてるぼうずくんと孝平くんに感謝だね」
 きゅっとつないだ手に、陽菜のぬくもりが心地よかった。



「そう言えばさ、そろそろお祭りの季節だよな」
「10月だもんね~。小さい頃は、お姉ちゃんが大張り切りだったなあ」
 その頃のことを思い出した陽菜は、くすくすと笑う。
「かなでさんのことだから、いろんなことやったんだろ。で、陽菜もそれに付き合ってい
たんだろ」
「うん。時々怒られたりもしたけど、やっぱり楽しかった記憶のほうが断然多いよ。近所
の子も集めて、半被軍団とか作ってた」
「半被かあ。……そういえば、俺着たことないかも」
「そうなの?」
「ああ。お祭りに参加したことはあるけどさ、半被は持ってなかったから」
「……それじゃあ、孝平くんに半被をプレゼントしてあげようか?」
「え? ……うーん、俺よりも、陽菜が半被を着て見せて欲しいかな」
「……わ、私?」
「そう。似合うと思うけどなあ」
「そ、そうかな」
「ああ。胸にさらしを巻いて、半被を着こなすイキな陽菜の姿が目に浮かぶよ」
「……えーと」
「あ、さらしはなくてもいいけど」
「そんなことしたら、お姉ちゃんに風紀シール貼られちゃうよっ」



 と言っていた陽菜だったが、後日、陽菜は孝平がプレゼントした半被姿を孝平にだけ披
露してくれた。
 さらしを巻いていたかどうかは、ふたりだけの秘密である。



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