2010/02/14

(ぷちSS)「とある兄妹の聖貯古日(バレンタイン)」(FORTUNE ARTERIAL)



 二月の半ばの、とある日曜日。
 今日は臨時の仕事が入ったので、休みであるのにも関わらず、生徒会の面々は学院まで
出てきて、それぞれ仕事を進めている。
「あ~、せっかくの日曜なのに、俺たちまで出勤とはね~」
「仕方あるまい。今日は支倉が用事で不在なのだから」
 書類をめくりながらぼやく伊織に、征一郎が答える。いつもの光景だ。
「そりゃ俺だって知ってるよ。まったく支倉君にも困ったもんだねえ。今日はせっかくの
バレンタインだってのに」
 伊織の言葉に、ぴくりとわずかに反応する征一郎。
「おや、どうしたんだい、征」
「……いや、なんでもない」
 そんな征一郎の様子を見て、伊織はにやにやと笑う。
「なんでもなくはないだろう。……やっぱり、気になるのはあれかな?」
 伊織が指差す方向には、給湯室があった。



 そろそろお茶にしましょうか、と瑛里華が言い、それではお茶の準備をいたしますねと
白が答える。それがいつもの光景だったが、今日は少し違っていた。
「ねえ白、きょ、今日は私も手伝うわ」
「え? ……あ、そうですね。わかりました」
 という言葉を残して、ふたりが給湯室に入っていったのが、今から10分ほど前のことだっ
たのだ。
「心配なんてしなくても、白ちゃんなら征にくれるんじゃないか?」
「……何の話だ」
「おいおい、それを言うのは野暮ってもんだろう」
 伊織のにやにやは、瑛里華と白が給湯室から出てくるまで続いた。



「お待たせしました~♪」
「遅くなって申し訳ありません」
 瑛里華と白が上機嫌で出てくると、それぞれ飲み物を配ってまわった。
「はい、兄さん」
「おう、サンキュー、瑛里華」
「兄さま、どうぞ」
「……ああ」
 全員分の飲み物を配り終えても、瑛里華と白は立ったままだ。
「え~、コホン。兄さん、征一郎さん。いつもありがとう。そして、今日もありがとう。
これは、私たちからの気持ちです♪」
「いつもお世話になっているおふたりに、私たちからのささやかな贈り物です。受け取っ
ていただけるとうれしいです」
 と言って、瑛里華は伊織に、白は征一郎にきれいにラッピングされたハート形のものを
差し出した。



「え、瑛里華が俺にっ!?」
 伊織は大げさにのけぞった。
「そうだけど、なんでそんなに驚いてるのよ……」
「だってー、えりりんが俺にくれるものっていったら、拳骨とか天罰ばっかりだし」
「それは、兄さんが悪いからでしょ! ……ったくもう、まあ今日は大目に見てあげるわ」
 瑛里華は少し顔を赤くすると、伊織の手にそれを握らせた。
「……ありがとうな、瑛里華」
「べっ、べつに兄さんが好きってわけじゃないんだからね」
「いや、俺は瑛里華がいいなら、いつでもオッケーだ!」
「私がイ・ヤ・で・す」
 という、いつもどおりの千堂兄妹だった。



「白、俺は……」
「はい。兄さまがあまり甘いものが好きではないのは知っています。ですので、甘さを控
えたチョコレートをご用意いたしました」
「そ、そうか……。それでは、いただくとしよう」
 征一郎は、動揺しながらも白の手から受け取った。
「はい♪」
 それを見て、嬉しそうに微笑む白。微笑を浮かべる征一郎。
 少しだけ、いつもと違う東儀兄妹だった。



 翌日。
 白からのチョコレートを征一郎が受け取ったという話をどこからか聞きつけた女生徒た
ちが、征一郎の元へたくさん押し寄せ、その対処に征一郎は苦労させられることになるの
だが、それはまた別のお話。



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