2010/11/27
(ぷちSS)「ゼンマイはお好き?」(FORTUNE ARTERIAL)
「こーへーは、ゼンマイ好き?」
いつものお茶会ではなく、今日はお鍋会にしようという悠木かなでの横暴……ではなく
要望により、お鍋会となった支倉孝平の部屋。
かなでは鍋の様子を見ながら、唐突に孝平に問いかけた。
「ゼンマイですか? ええ、好きですよ。仕事柄、いろんな学校を渡り歩いてきましたか
らね。俺に好き嫌いはありません」
「仕事柄って、支倉くんは学生でしょ」
呆れた、と言わんばかりにツッコミを入れる千堂瑛里華。
「えーと、学生兼、渡り鳥ってところかな」
「わあ、素敵ですね」
東儀白は尊敬のまなざしで孝平を見つめた。
「……貴方、いつも焼きそばの紅しょうがを抜いているのではないかしら」
「あれは食い物じゃない」
紅瀬桐葉の指摘に、キッパリと答える孝平だった。
「ほほう、こーへーはゼンマイが好き、と。よかったね、ひなちゃん♪」
「うん、もうすぐお鍋できそうだもんね、お姉ちゃん」
かなでの言葉に、お鍋をかき混ぜながら答える悠木陽菜は、いつも笑顔だ。
「やったー! って、それも嬉しいけど、そう言うことじゃなくて、こーへーはひなちゃ
んのことが好きだってこと!!」
「……ええっ?」
「ちょ、ちょっとかなでさん、いきなり何を言い出すんですか」
面食らっている陽菜に、孝平の言葉が重なった。
「だって、こーへーは全妹が好きなんでしょ。おねーちゃんとしては残念だけど、ひなちゃ
んの幸せを考えれば、わたしはいさぎよく身を引くよ……」
「お姉ちゃん……」
顔を伏せて、肩を震わせるかなでを見て、陽菜は寂しそうな表情だ。
「思いっきり、ウソ泣きッスけど」
それまで黙って見ていた八幡平司がつぶやいた。
「ちょっと、なんてこというのさ、へーじ!」
反論するかなでの手には、隠し持っていた目薬があった。
「まったくもう、かなでさんは。第一、妹は陽菜だけじゃないでしょうに」
「……も、もしかして、わ、私もなの?」
「わわわ、わたしは兄さまの妹ですから、ということは妹であるわけでして、わわわ」
なぜか、瑛里華と白までもが顔を赤くしていた。
「きりきり! わたしたちおねーちゃんずは、こーへーの対象外なんだよっ」
「……そのようね。私は姉ではないけれど」
面倒くさそうに相槌を打つ桐葉。
「待ってくださいって! 俺は……」
孝平の言葉を遮るように、司がぼそりとつぶやいた。
「てことは、俺の双子の妹も対象内ってことか」
「いいかげんにしてくれーーーー!!!」
寮内に、孝平の絶叫が響き渡った。
その後、飛び込んできたシスター天池に延々と説教された孝平は、紅しょうが以外にキ
ライな食べ物がひとつ増えた。
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